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そうして、正式に結婚の約束をした俺と伊春だが……そうは言っても、やはり俺は来週にはいったん新潟に帰らなくてはならない。
まだ当分は伊春とこのまま二人で暮らしていたい気持ちもやまやまだが、新潟での仕事を無責任に放り出すわけにはいかないし、家族にだって伊春との関係を自分の口で改めてちゃんと伝えたい。
たとえ、反対されることになったとしてもーー。
「なるべく早く東京に戻ってくるからな」
新潟に帰る前日の夜、俺は最後の荷造りをしながら、なるべく明るく伊春にそう伝えた。
しばらく遠距離恋愛になるから寂しくなるとは言え、湿っぽくなりたくはない。
そんな俺に、伊春はこう言うのだ。
「そのことなんだけど、東京に引っ越してくるのは別にそんなにすぐじゃなくていいよ?」
「は?」
「新潟に戻ったって全然会えなくなるわけじゃないんだし。尚のご両親を説得して、僕からも挨拶をして……っていう段階をきちんと踏みたいし」
「で、でもお前の体調とか心配だし……!」
「一昨日、薬をもらう為に病院に行った時に診察してもらったんだけど、容態が急変することは恐らくないだろうって言われたよ。もちろん、絶対ではないけどさ。だけど、尚に駆け落ちみたいなことはさせたくないから、時間を掛けてでも尚のご両親に理解してもらおうよ」
「ぐっ……大人の余裕って感じがムカつく」
「はは。別にそんなんじゃないよ。尚のご両親に嫌われたくなくて慎重になってるだけさ」
伊春はそう言うけれど、俺に比べたらやっぱり大人な感じがして、何だか悔しい。
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