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「お前らな……」
呆れたように言った男に笑い声を返したメルシアが、男から買い取った品を丁寧にしまってから、それじゃあ、と口を開く。
「僕はそろそろお暇しますね。急いで帰って、地神のためのお金を用意しないと」
「別に急ぎじゃねぇって言ってんのに」
「貴重な品ですからね、僕が早く手元に置いておきたいんですよ」
そう言ったメルシアは自分の分の金をテーブルに置いて立ち上がると、まだ飲み食いを続けている二人に軽く頭を下げてから、出口へと向かって歩き出した。男も少女も、それを止めるようなことはせず、去っていく背中を見送る。
そうしてメルシアの姿が完全に見えなくなったところで、少女は窺うように男を見上げた。
「……メルシアさん、納得してくれたんですかね?」
「さあな。けど、事情も知らずに首突っ込んで掻き回すような奴じゃねぇから、そんなに気にする必要はないさ」
その言葉に、少女がぱちりと瞬きをした。
「前々から思ってたんですけど、ハンターさんってメルシアさんのことすごく信頼してますよね」
「信頼っつーか、まあそれなりに長い付き合いだからなぁ。なんとなくの人となりは知ってるってだけだ。……そんなことよりだな」
そこで言葉を切った男が、テーブルの上に置かれているメニュー表に向かってそろそろと伸ばされていた少女の手をがっと掴んだ。
「食い過ぎだ! いい加減にしとけ!」
「ええ! お魚を食べたから次はお肉をと思ったのに!」
「メインディッュってのは普通は一品なんだよ!」
「じゃあせめて! せめてデザートだけでも……!」
言いながら捨てられたペットのような目をして見上げてくる少女に、男がうっと言葉を詰まらせる。
いくら今回の狩りで懐が潤ったとはいえ、今後も上手くいくとは限らない以上、無駄な贅沢はしないのが男の主義だ。だから、目の前の少女の嘆願も、本来であれば切り捨てるべきである。あるのだが……。
「…………仕方ねぇ。一品だけだぞ」
「やったー! ハンターさん大好きです!」
結局今夜も己の主義を曲げることになってしまった男は、そんな自分に呆れと諦めの感情を抱きつつ、やれやれと溜息を吐いたのだった。
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