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「どうした。体調でも悪いか」
「いいえ。バラがあまりにも綺麗でつい…」
「そうか。あれは母の趣味だろう。昔から好きだった」
「そうですか。お義母様の趣味だったのですね。素敵です」
京がつばきの肩に手を回し引き寄せる。
ぽっと頬を赤くするつばきが気恥ずかしさから目を逸らした。
「あら、来てくださったのね。つばきさん」
前方から聞き覚えのある声がしてはっと顔を向けた。
そこには人目を引くような真っ赤なバラが散りばめられた白い着物を着た京の母親が立っていた。隣には父親がいる。
どちらも日本人離れした整った顔立ちをしている。
「ご無沙汰しております。以前は大変失礼な…―」
「いいのよ。もうあなたが京と結婚することは決まっているのだから」
京の母親がつばきの言葉を遮ってそう言った。
すこし棘のあるような言葉はまだ完全につばきを受け入れているとは思えない。
しかし、それでもいいと思っていた。
そもそも一条家は誰もが耳にしたことのある名家だ。そんな名家である一条家と西園寺家の中で疎まれる存在であったつばきとでは釣り合うわけがない。
これから認めてもらえるように頑張りたいと強く思った。
つばきの目は明らかに京と出会った頃とは違う。強い意志を感じる。
京の母親はつばきの意思の強い目を見て、ふっと笑みを溢した。
「そうね。もっと気を強く持たねばこの家を任せられないわ」
「はい、わかっております」
京の母親は視線を流すようにして京を見る。
「随分変わったのね。“いい意味で”」
「そうだとすればつばきのお陰だ」
「そうかもしれないわね」
京の母親がすっと脇を通る。
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