17018人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
♢♢♢
今日はいよいよ初めて一条家の本家で開かれる饗宴に参加する日だ。
早朝からつばきはみこに化粧をしてもらい、その度に緊張感が増していた。
『大丈夫ですよ。胸を張って参加して来なさい』
みこの言葉を胸につばきは大丈夫、と自分に言い聞かせていた。
本家の母屋はみこに聞いていた通り門構えからして他の家とは違うように思った。
(凄く立派な家だわ…)
京は以前から“家を継ぎたくはない”と言っていた。
しかし、つばきとの婚約を条件に次期当主になることを決めたようだ。
もちろんつばきが相手だということは例の件がなければ今でも認められなかっただろう。
だからこそ、つばきは京にとって相応しい女性にならなければという思いが強くなったのだ。
それはそれは広い屋敷に足を踏み入れると、緊張したくなくともしてしまっていた。
母屋は非常に広いのだが、庭は迷ってしまいそうなほどに広い。
日傘をさした婦人たちやご令嬢、ご子息など京とすれ違うたびに目を輝かせて京に挨拶をしていた。そのたびに京は丁寧につばきを紹介した。
「あら、こちらが例の奥様になるお方かしら」
「ええそうです。妻になるつばきです」
「初めまして。つばきと申します」
「ええ、知っていますわ。だって京様がご結婚なさるなんてそんな素晴らしいお話!話題にならないはずがないですもの」
扇子を口元で隠しながら朗らかに笑う婦人につばきは軽く会釈した。
「あぁ、そうだ。あちらに環様もいらっしゃいましたよ」
「そうですか。では」
京とともにその場を離れる。広い庭には幾つかのテーブルに洋食がメインで並べられており、赤いバラが綺麗に広がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!