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幼なじみの春樹は、計画を立てるのが好きだ。計画通りにことを進めるのが楽しいらしい。計画バカである。
「高校の勉強なんて、計画を立ててその通りにやればいいんだ」
なんてことを平気で言う。そして人並外れた頭の良さと実行力で、たいていのことはこなしてしまう。
その春樹が、人生計画の最初の関門ともいうべき大学入試に落ちたのは、運命のいたずらとしか言いようがなかった。
「千佳。おれ、タイムマシンを作ろうと思う」
「え、まさかノイローゼ? それとも、あの男に殴られたせいで頭が」
「やめろ。おれは正気だ」
私は春樹の部屋を訪ねていた。落ち込む春樹を少しでも慰めたいと思って来たのだが、当人はデスクチェアにふんぞり返り、わけのわからないことをまくし立てている。
「ベッドでごろごろしていたら、画期的なタイムトラベルの方法を思いついてな」
「それってどんな」
「言ってもわからん。で、作ったタイムマシンで何をすると思う?」
春樹は額縁眼鏡をクイッと持ち上げた。
「大学受験をやり直す。初めての、つまり今年の受験をだ」
春樹が前期試験で落ちたのには理由がある。受験当日、私と春樹は同じ電車に乗っていた。その電車に、変質者が乗り込んできたのだ。
私がまず男につかみかかられて、助けようとした春樹は頭を殴られ昏倒した。男は次の駅で取り押さえられたが、春樹はフラフラの混乱した状態で受験に臨むことになり、落ちたのである。
それは、春樹にとって衝撃的な『計画外』だった。計画バカの春樹は一方で、『計画外』に出会うと動揺してしまう弱さがある。今回の動揺は相当なものだったろう。春樹はその後の試験にも失敗してしまい、浪人になった。
ちなみに私は、事件直後は号泣していたものの、切り替えて無事に第一志望の大学に合格した。根が図太いのだ。
「おれはあの事件さえなければ、現役合格するはずだった。だから、合格することにした」
春樹には落ち込んでいる様子などみじんもない。それは良いのだけれど、発言内容に問題があり過ぎる。唖然とする私をよそに、春樹は高らかに宣言した。
「タイムマシンを作って過去に行く。そして、過去のおれを合格させる。この計画は成功させてみせるぞ!」
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