潜入捜査と驚きの事実に

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「え? 日帰りの社員旅行の幹事を私にやって欲しいって、それは高峰(たかみね)君と一緒にという事ですか?」 「いいえ、残念ながら私はその日は別の仕事がありまして。ですので現在、颯真(そうま)さんの補佐をされている深澤(ふかさわ) 花那(かな)さんと一緒にやって頂けないかと」  高峰は笑顔でそう答えるが、篠ヶ原(しのがはら)は驚きを隠せないようだった。それもそのはず、この深澤カンパニーでは社員旅行などの幹事は若い社員がやることが多い。年配の自分に声がかかるとは、篠ヶ原も思ってもいなかったのだろう。 「……その、花那さんはそれでいいと? 彼女が幹事をやるのならば夫である颯真君が一緒の方が良いんじゃないかい?」 「颯真さんには他の社員への挨拶や交流を深める方にまわって頂きたいので。花那さんも篠ヶ原さんと一緒ならばなら安心出来ると、彼女はまだここに慣れてないのでベテランの貴方が適任かと思いまして」  そこまで説明されて篠ヶ原も納得したのか、小さく頷いて見せる。ここで断れば人の好い彼のイメージが壊れる可能性があるため、篠ヶ原は幹事を引き受けるだろうという花那の読みは当たった。  高峰がわざわざ人が多い昼休みの社員食堂前で彼に声をかけたのもそのためだ。 「そういう事なら仕方がないな、私も彼女の力になれるよう協力しよう」 「ありがとうございます、助かります」  そう言うと丁寧に頭を下げたあと高峰はスタスタと自分の部署へと戻っていく。そんな彼女の後ろ姿を、篠ヶ原は何かを思案するような表情で見つめていた。
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