過去19

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過去19

 そんな真口様を心配な気持ちと共に見つめていると、ふと私は以前神主さんと話しをしたことを思い出した。神主さんから(あまり理解は出来てなかったが)神様がどうやって生まれるのかを教えてもらった訳だけど、真口様が真口様になる前はどうだったんだろうという。そんな疑問がふと浮かんできた。祖母に人を喰う狼だったという話は聞いていたがそれ以外は何も分からない。 「ねぇ、神様になる前は何してたの?」 「何もしてない」 「ずっとここにいるの?」 「そうだ」 「お話しして! 私お話し好きなの」 「断る」 「神様になる前からそんなに大きかったの?」  だが真口様からの返事はない。 「どうして神様になったの?」  その声が消えた後、そこに残るのは相変わらず静けさだけだった。 「何で――」  するとそんな私の言葉を真口様の溜息が遮った。 「分かったから黙ってろ」  私は満足げで期待に満ちた笑顔を浮かべると言われた通り静かに話が始まるのを待った。  そして真口様は目を瞑ればその光景が見えそうな彼自身の話をしてくれた。  当時はまだこの島の八割程は森に覆われていたらしい。最初は動物だけしか生息してなくてその種類も様々。その中の一種として真口様の種族は暮らしていた。狼は数が少なく真口様の群れしか存在していなかったけど天敵がいないお陰で安全に生きる事ができたらしい。  だけど時代が進むにつれ段々と天敵に成り得る存在が現れ始めた。それが人間だ。
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