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カノジョの場合
がちゃり、とドアのカギが開く音。
聞きつけた私は、玄関目指してまっしぐらに駆ける。
「ただいま」を言う彼に飛びつくと、慣れた動作で私を抱き留めてくれた。
一日頑張ってお仕事をしてきた彼を、とびきりの笑顔でお出迎え。
それは私の・・・・・・私だけの、大切な日課。
ダイニングテーブルで向かい合わせに座り、ちょっと遅めの夕食。
先に食べ終えた私の目が、彼の手元に置かれたビールの缶に向く。
伸ばしかけた私の手を軽く叩き、彼は缶を遠ざけた。
「お前は飲んじゃダメ」ですって? 確かに見た目は子供っぽいかもだけど、私だって同い年なのよ?
むくれる私の口に、一枚のクッキーが押し込まれる。お菓子で誤魔化そうなんて、そうはいかない・・・・・・むぐむぐ、ごっくん。あ、結構美味しい。
仕方ないわね、今日のところはコレで許してあげるわ。
ソファに並んでくつろぎながら、彼は一日の出来事を話す。
にこにこ笑いながら話を聞いていた私は「今日、お店に新しいコが入ったんだよ」という彼の言葉に、ぴん、と耳を立てた。どうやら若い女のコみたい。
「可愛いコだし、人気者になりそうだよ」だなんて・・・・・・私という者がありながら他の女を褒めるって、無神経過ぎるんじゃない?
ぷいっ、とそっぽを向くと、彼が近付いてくる気配。
「でも、キミが一番可愛いよ」耳元で囁かれた、照れ混じりの言葉。
その一言ですっかり機嫌を直した私は、頭を撫でてくれる手の心地よさにうっとり目を閉じた。
彼に抱き上げられてベランダに出る。
今日は流星群っていうものが見られるらしい。
「流れ星に願い事を三回言うと、願いが叶うんだって」と言いながら、夜空を見上げる彼。
真剣な横顔。彼が叶えたい願いは、どんなものなのだろう?
私も一緒に流れ星を探す。
もし・・・・・・もしも本当に流れ星が願いを叶えてくれるというのなら。
願う事は、ただひとつ。
彼と同じ、人間になりたい。
人間になって「おはよう」を言って、「おかえり」を言って・・・・・・「大好き」だと彼に伝えたい。
「にゃあ」言葉を話せない代わりに、彼への想いをたくさん詰め込んだ声で鳴いてみる。
自慢の長い尻尾を振りながら、私は海色の瞳で流れ星を探し続けた。
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