23.生命の樹

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 スノウと共に樹の根元まで近付いた健二は、違和感を覚える。自分が目にしている『樹』であるはずのそれが、なぜか現実味のないものに感じる。確かにそこに存在するはずの巨大な植物に実態がないのだ。考えるよりも先に、健二の手が樹の幹に触れていた。 「これは一体……」  健二は不思議な感触に思わずスノウを凝視する。手に触れた幹は、硬くどっしりとした感覚ではなく、まるで着ぐるみに触れときのようなふわりとした柔らかい感触だった。 「生命の樹だよ。君を送り届ける前に見せてあげたくてな」  スノウは恍惚な表情で、目の前に立っている樹を見上げて言う。 「これが、生命の樹」  健二は呟くように言って木の根元まで近付くと、つぶさに観察する。枝から芽吹く青葉が気になり、更に注意深く目を凝らす。  視界にある全ての青葉が『葉』ではないことに気付いた。一見すると、大きな広葉がそよ風に揺れているように見えるが、陰火のような小さな生き物が、がゆらゆらと形を変えながら細い枝にしがみついているのだとわかった。だが、その姿を正確に捉えようとすると、視界がぼやけて意識が朦朧とする。まるで実態が掴めない。 「これが精霊の姿だ」  低い声で言ったスノウが、横目で健二を見る。その面持ちが、君にはどう見える、とでも言いたげな様子なのを痛いほど感じた。 「良くわからないけど、意識を向けると気が遠くなるような感じがして」 「ああ、そうだな。精霊は魔法使いである私たちの視覚さえも超越した存在なんだよ。まあ、天神と繋がりを持つ君ならもしかすると、と期待していたが、やはり難しいか」  スノウは頭を掻きながら力なく笑う。どうやら、精霊への探究心がスノウをここまで誘ったようだ。そんなことを考えている健二を横目に、スノウは興味津々といった様子で樹の周りを何度も右往左往している。 「以前もこの樹を見に来たんだが、あのときは今にも枯れて朽ちそうな老樹でしかなかったが、今はこうして生命力を取り戻している」  そこまで言うと、スノウは健二を見据える。その視線が何かを伝えようとしているのがわかり、健二は恥ずかしさを紛らわそうと狼狽える。 「それは良かったよ。君のお陰だろ――精霊王だっけ。君がいるから精霊たちが戻ってきた。そういうことだろ」  健二がひとしきり言葉を吐き出すと、スノウはなぜか微笑みを浮かべる。
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