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閉会の言葉が告げられ、会場から少しずつ人が減っていく。
凛と糀谷も退場する人の列に並んだ。
出口では、記念品が配られているようだ。
「お疲れ様、小山内さん。素晴らしい営業だったよ」
「ただお喋りしていただけでしたけど、思いの外楽しかったです」
「名刺も結構集まったでしょ」
「はい、凄い。記念にとっときます」
糀谷は、そういうもんじゃないでしょ、と笑う。
記念品の入った紙袋を受け取って、ホテルのエントランスホールに出た。
凜は糀谷の正面に回ると、頭を下げた。
「今日はありがとうございました。糀谷さんのお陰でとても楽しめました」
「そんなお礼を言われるほどのことはしてないよ。俺も助かったし」
凜は顔をあげてニッコリ笑った。
「では、私、この後用事があるので失礼します」
「えっ!ちょ、ちょっと待って!」
糀谷が慌てて追いかけてくる気配がする。
しかし、振り向かずに凜は駆け出した。
糀谷を好きだと認めた今、一緒にいるわけにはいかない。
「小山内さん、待って!」
ホテルを出てロータリーを走り左に折れると、街のメイン通りが正面に見えてくる。
右手には海浜公園が続く。
鬱蒼とした木々の切れ間から、月に照らされた海面が見えた。
凜は懸命に駆けたが、ヒールが足枷になり上手く走れない。
案の定、直ぐに糀谷に追い付かれ、肩を掴まれた。
糀谷の息も切れている。
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