プロローグ

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プロローグ

亜季(あき)さん、この前の児童書の続きを読んでほしいな!お姫様の」 「ええ?俺は絵本がいいよ」 「いいや!せっかくいい天気なんだから庭でかくれんぼだろ?あと焼き芋だ!」 「兄ちゃんいつもかくれんぼばっかり!縄跳びは?父ちゃん買ってくれたのいっぱいあるじゃん!」 河本旅館(こうもとりょかん)の玄関ホールで、近所の子供達や宿泊客の子供がワイワイと楽しそうに話している。 館内の掃除をしていた若女将の河本亜季(こうもとあき)は、その様子を微笑ましく見つめてから裏庭のほうへと視線を移す。 「わかったわかった。伊織(いおり)ちゃんの児童書、神路(かみじ)くんの絵本、前川(まえかわ)さんちのお兄ちゃんのかくれんぼに焼き芋に......あとなんだっけ?」 「縄跳びだってば!そうだ、2本つなげて大繩跳びしようぜ!」 両手に水色の縄跳びをかかげる少年に、亜季(あき)はまた頬が緩む。 「みんな本当にかわいいなぁ。お掃除もう終わるから、先にお庭に行っててくれる?」 優しくて穏やかな亜季(あき)は子供たちの人気者だ。 亜季(あき)も彼らと接せられるのを心から幸せに感じていた。 「そういえば亜季(あき)さん、お庭にある古いおうちみたいなのはなに?」 なぜか館内展示品の古びた彫刻を抱っこしている伊織(いおり)は、広い庭の奥にポツンと立つ建物のことを聞いているようだ。 「ああ、あれは蔵よ。この旅館、大昔はお寺だったからね。その頃の大事なものをたくさん保管してるのよ。そうだ!明日は年末の大掃除をするから、皆も入ってみる?」 神路(かみじ)前川(まえかわ)兄弟は乗り気じゃなさそうに顔を見合わせたが、伊織(いおり)だけは目を輝かせて大きく頷いた。
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