44人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ
プロローグ
「亜季さん、この前の児童書の続きを読んでほしいな!お姫様の」
「ええ?俺は絵本がいいよ」
「いいや!せっかくいい天気なんだから庭でかくれんぼだろ?あと焼き芋だ!」
「兄ちゃんいつもかくれんぼばっかり!縄跳びは?父ちゃん買ってくれたのいっぱいあるじゃん!」
河本旅館の玄関ホールで、近所の子供達や宿泊客の子供がワイワイと楽しそうに話している。
館内の掃除をしていた若女将の河本亜季は、その様子を微笑ましく見つめてから裏庭のほうへと視線を移す。
「わかったわかった。伊織ちゃんの児童書、神路くんの絵本、前川さんちのお兄ちゃんのかくれんぼに焼き芋に......あとなんだっけ?」
「縄跳びだってば!そうだ、2本つなげて大繩跳びしようぜ!」
両手に水色の縄跳びをかかげる少年に、亜季はまた頬が緩む。
「みんな本当にかわいいなぁ。お掃除もう終わるから、先にお庭に行っててくれる?」
優しくて穏やかな亜季は子供たちの人気者だ。
亜季も彼らと接せられるのを心から幸せに感じていた。
「そういえば亜季さん、お庭にある古いおうちみたいなのはなに?」
なぜか館内展示品の古びた彫刻を抱っこしている伊織は、広い庭の奥にポツンと立つ建物のことを聞いているようだ。
「ああ、あれは蔵よ。この旅館、大昔はお寺だったからね。その頃の大事なものをたくさん保管してるのよ。そうだ!明日は年末の大掃除をするから、皆も入ってみる?」
神路と前川兄弟は乗り気じゃなさそうに顔を見合わせたが、伊織だけは目を輝かせて大きく頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!