歩み寄るのは

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「おはよう、おねえさん!」    こどもの明るい声に、目を薄く開いてから布団に潜り込んだ。だが、無情にも布団が無理矢理捲られてしまって少しだけ眉間に皺が寄ったのが自分でもわかる。明るいのがすごく嫌だ。  そんなことを思いながら漣は無理矢理身体を起こして息を吐いた。   「おーはーよー!」 「はいはい、おはよう……」    まだ眠たいのは寝ている間に馬鹿みたいに騒いでしまったからだろう、寝足りないなんて思うなんて初めてのことでまだぼんやりする脳を無理矢理覚醒させようとするも、やっぱりまだ眠たくて布団に戻りたくなる。   「ねちゃだめだよ!」 「今日からおれたちが着替えをてつだうんだからな!」 「あぁ……なんか寝る前に頼まれてたね……一人でも着替えられるよ」    そう言って断ればその場にいた服を用意していた子どもら数人に声を揃えて「ダメ」と睨まれた。立ちあがろうとすれば「座ってて」と声を漏らされて肩を押さえつけられてしまった。本当に良い子たちばかりだなぁ、と思いつつ息を吐いた。   「きょうはずぼんとしゃつにしよーね」 「選んでくれたの? 僕の趣味わかってんじゃん。ラブユー」 「らぶゆー」 「らぶゆー!」 「やべ、いらないこと教えちゃった」    反省している様子はない。  真似して同じ言葉を繰り返す幼子達が楽しそうにきゃっきゃっとはしゃいで足の上に乗ってくるのはまた可愛らしい光景だと思う。普通に癒されるだろうし、見てて飽きないが正直なところさっさと着替えたいので足を上げて無理矢理畳の上へと落とした。それはそれで楽しかったのかさらにきゃっきゃっと声を上げて笑っているのだから子どもって案外単純だなぁとぼんやり考えていれば服を引っ張られた。  前髪が長く、目元の隠れたそばかす顔の少年が片手の親指を口に咥えたまま障子の方に顔を向けた。何事かと思ってそちらを見てみれば障子越しに誰かの影が見えて思わず肩を跳ね上げた。   「え。誰」 「こんにちは、如月です」 「あぁ……え? はぁ、お久しぶりです……?」    困惑。  その一言に尽きる。   『誰だ?』 「……最初に案内して以来じゃないですか、何か御用ですか?」    開けてあげて、と水子の一人に言葉を掛ければそばかすの少年が障子を開けた。そこには白い面をつけた髪を高い位置で結い上げている女性、如月が正座していて多分視線が合ったのだろう小さく頭を下げられた。   「お久しゅうございます。那古の方から言われましてお着替えの手伝いに参りました」 「え、いや別に子どもたちに手伝ってもらいますけど」 「……私が、手伝いたいので……」    なんだそれ   『なんだそれ』    火鬼芭と思ったことが被ってしまったことになんとも言えない感情を抱いてしまった。
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