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幸せの在処
ノラ……こと佐々木理とは、あれからたくさん話をした。
理は3年前にご両親を事故でいっぺんに亡くし、悲しみに浸る余裕も無く遺産相続問題に巻き込まれたんだとか。
理の父親は小さな会社の社長をしていたらしく、比較的裕福な家庭だったらしい。
何不自由無く、両親から愛されて育った理には、急変した親族が信じられなかったそうだ。
両親の葬儀で涙を流していた人達が、告別式が終わるなり『誰が会社を継ぐんだ?』とか、『保険金は全部独り占めする気じゃないだろうな?』と、詰め寄って来たりもしたらしい。
正当な財産分与を行い、弁護士と何とか父親の会社と社員を守る為に奔走している間に、今度は無理矢理に遠い親戚の娘と結婚させられそうになってしまい、理は全てに疲れてしまったんだとか。
信頼出来る人に会社を任せ、毎日家に押し掛けては金品を要求する親戚や、隙あらば寝込みを襲って結婚しようとしてくる遠縁の親戚の子供達から身を隠すようにして逃げ出した。
家の登記簿や必要な財産から実印の類は銀行の貸金庫に預けて、自分で稼いだ預貯金だけで逃げ回っていたが、それも底を着いた頃には無気力になっていたらしい。
振り返ると、あんなに優しかった人達が、遺産を狙ってハイエナのようにタカって来ては喧嘩を繰り返す日々。
自宅に戻ったとしても、今度はご両親の遺した遺産や家の権利書等はどうしたのだと騒ぎ立てるだけなのを考えると、食べる事も面倒くさくなり、何も食べずにあちこちフラフラと歩き回って浮浪者のような生活をしていたと話した。
きっと、俺に話した事以外にも辛い思いをしたのだろう。
当時の話をする理の瞳は、暗く沈んでいた。
俺はただ黙って、当時の事を語る理の話を聞く事しか出来ない自分がもどかしかった。
だからせめて、今はそばに居るよって伝えたくて理の手を握り締めると、理は小さく微笑んで俺を見つめて
「だからさ、海に出会って居なければ……僕はあいつらの思うつぼってヤツで、死んでいたかもしれない」
そう呟くと、ギュッと抱き締めた。
「僕は何の不自由も無く生きて来たから、今更、父さんが繰り返し話してくれた言葉を思い出すんだ」
「どんな言葉?」
「お金が人を変えるんじゃない。お金はその人の本質を暴くんだってね」
理の言葉に、理の父親もたくさんの苦労をしてきたのだろうと感じた。
その時、ふと思ったんだ。
俺はどうだろう?って……。
目の前に多額のお金を積まれたら、俺も金の亡者に成り下がってしまうのだろうか?
理は俺の考えを察したのか、俺の身体を再びギュッと抱き締めると
「海は大丈夫だよ」
そう呟いた。
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