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仏頂面に歪ませたい!①
「一ノ瀬おまえやっぱ似合ってんじゃん!」
「そっか?」
マジ……嫌なんだけど
「あっ仲村、見ろよ尚樹その辺の女子より可愛いよな」
嫌だ! 見るな!!
また____
「暫く見てなかったのに……」
「なんだ起きてんのか」忘れもしない仏頂面の友弘が俺を覗き込んでいた。
最悪だつーの……!
「……相変わらず慣れない顔」
「折角、起こしにきてやったのに」俺の部屋に勝手に入り、険しい表情で俺を見下ろす仲村 友弘は、隣に住む同じ年の幼馴染だ。
「勝手に入ってくんなよ。仲村のエッチ」俺はがふざけてぶりっ子してみたが……
「…チッ」
「あ?! 今舌打ちしたな?」
「……相手取っ替え引っ替えのやつがぶりっ子したところで全く可愛くない」友弘は、眉間に皺を寄せ俺を睨んてくる。
「はぁ? 世界一可愛いーつっーの!その俺を好きだって言っくれるんだから断ったら可愛いそうじゃん…そういやおまえはどうなんだよ」
「……早くしないと遅刻するぞ」友弘は、その質問には応えずさっさと部屋を出ていった。
「えっ?! マジでやべぇじゃん!ババァ起こせつったのに!」俺は、慌ててベッドから起き上がった。
俺達は、同じ高校である一定の距離を保ちながら、幼馴染という腐れ縁が続いている。
俺は、早足で学校に向かった。遅刻を三回すると、担任がペナルティーを付けてくる。一度、面倒な雑務を言われ痛い目にあった。
つーか、そもそも友弘と同じクラスじゃねぇし、あいつ一組だし!
「本当、お節介なやつ……」
友弘は、学級委員とか推薦されちゃうくらい優秀やつで、それに比べて俺は、良くもなく悪くもない。良いのは顔だけ…顔が可愛いとかで、高校生になってなんだか周りが賑やかになった。俺としては、正直放っておいて欲しい。
誰も知らない俺のコンプレックスが、こんな風になるとは思ってなかった。今となっては、女顔とか揶揄ってくるやつもいなくなって良かった。まさかヤリチンの噂が広まってしまったのはイタイところ。まぁ、強ち間違いじゃないが。
そういや、友弘って彼女いたりすんのかな聞いたことがない。結構、モテてんのに……
幾ら、幼馴染といって全部知ってたらそれはそれで問題じゃねぇ? つーかなんで俺の噂は広まるんだよ!
怖っ! まっいいけどさぁ……
※
「間に合った……」十五前に昇降口に着いた俺は、下駄箱から上履きを取り出し靴を突っ込んだ。
「はよっ! 一ノ瀬」俺と同じくらいの身長で明るめの髪は、長めの前髪に後ろを刈り上げにしていた。若干、吊り目のこいつは……
「誰だっけ?」
「マジで言ってんの? え・の・は・ら! 榎原だっつてるじゃん! 二年になってだいぶ経つけど?!」
「あ、そうそうエロ原……」冗談を言った俺に「マジで止めろって」榎原は、真顔で俺を遮ってニッと笑い下品な手の形をした。
「俺ら絶好調じゃね?」
「おまえ、それ…やばいって」俺は、榎原の手を叩いて笑った。健全な男子校生である。
高校二年になって、一緒のクラスになった榎原は俺の後ろの席だった。中学も一緒だったらしいが、榎原を知らなかった。正直、友弘以外あんまり覚えていない。
榎原ってよく分かんねやつだけどなんか楽でいい……
俺と榎原は、一組側の廊下を通り過ぎようとした時、前の入り口から友弘と美人? で噂になってる女子と一緒に出てきた。友弘は、普通に会話し穏やかな笑顔をしていた。
へぇ……笑ってもくれねぇくせにさぁ……
「あっ仲村じゃん。そういや一ノ瀬と仲良かったよな?」
「昔は…な今は」そうでもないと言おうとした俺を友弘が遮った。
「一ノ瀬、間に合ったか…ペナルティー免れて良かったな」さっきまで普通だった友弘の顔が引き攣った表情になる。
それで普通に笑ってると思ってんの?
友弘の隣にいる女子と榎原が、その顔にドン引きしていた。
「はいはい、間に合いましたよ…つーか学校で話し掛けんなっつったじゃん」
「……そんな事言われてない」友弘の顔が余計険しくなる。
「みんな怖がってるし…もう、いいだろう」
俺は、榎原と教室に向かった。榎原に「俺にはあんな風なの」というと「へ…へぇ」と榎原は引き攣った笑顔をした。
それでも俺らが離れないのは何故なんだろう。
※
「おい、一ノ瀬もうすぐ授業始まんぞ」何科の先生? が俺を呼び止めた。
「ちょっとトイレ」欠伸をしながら廊下を歩いた。
「早く行ってこい」
「うっす」
ああ、だりぃ…ブッチ決定。天気いいし昼寝でもするか……
俺は、いつもの場所へ向かった。屋上に入れる校舎は、三年生側の校舎にしかなく一、二年生側の校舎は立ち入り禁止になっている。
わさわざ、三年の校舎に来るとか誰も考えないとゆーか、そもそも屋上が開いてるって誰も知らない。
俺は、ドアを開け天気いい空に大きく腕を伸ばし盛大に欠伸をした。
「でけぇ欠伸……」
俺は、声のする方を見た。フェンス辺りが丁度、給水タンクの影で日陰になっていて俺もよくここで昼寝をしていた。
「よぉ、久しぶりだな」タバコを挟んだ右手をこちらにヒラヒラさせた。黒髪を短髪にし前髪は寝癖かセットなのか、上手い具合にこの人物に似合っていた。生徒会長だとかで有名な……
「誰だっけ?」
「本当、おまえ友弘以外覚えてないのな」
そういや、友弘の遠い親戚とかいってたっけか……
「も・り・む・ら・か…」
「あっ! かつ兄だ」
「思い出したんかーい」
一見、怖そうに見えるかつ兄こと森村勝也の笑顔は正に女子がいうギャップ萌えというやつだな……なんて思いながら、俺は森村の側までいき腰掛けた。
「生徒会長さんがこんなところでサボってていのかよ」
「俺は、真面目じゃねぇの」右手に挟んだタバコを咥えフーと煙を吐き出した。
「優秀なやつは、何考えてんのか分かんね」
「なんも考えてないんじゃねか…ただ与えられたことやってるだけ…それじゃつまんねぇだろう?」
「そう言われても俺には分かんねぇわ」
森村は、声を上げて笑い「それでいいんじゃね?」といって俺の頭を撫でた。
「俺にもタバコくれよ」俺は、森村に手を差し出した。
「止めとけ…インポになんぞ」森村は、揶揄うように笑った。
「あんたそうなん?」
「マジで取んな…つーかそんなに吸いたきゃ吸わせてやる」
森村は、俺の腕を掴み引き寄せキスをした。
「……うぇ苦っ!」口元を拭った俺を見て森村がまた笑い出す。
「そこかよ…突っ込まねぇの?」
「え? 何が?」
「俺、今キスしたし」
「ああ、別に…そんな不味いのよく吸えんな。そっちの方が衝撃的だわ」俺は、べーと舌を出して渋い顔をした。
「おもしれーなおまえ」俺の何がツボにはいったのか森村はまた笑っている。
「はぁ? 何がそんなにおかしいんだよ」
森村は、もう一度俺を引き寄せ耳元で「俺と付き合わねえ?」と言った。
「え、いいけど?」
「即答?! ヤリチンの噂マジなんだ」
「まぁ……男は初めてだけどあんたならいいよ。今フリーだし」
「へぇ……じゃ俺が初めての男になるわけだ」
「そうゆー事になんのかな?」
俺のズボンのポケットでスマホが鳴った。決まった時間にメッセージを送ってくるのは友弘以外いない。一緒帰ろうと一言。
毎朝見てるのに、帰りまであの顔を見るの鬱陶しかった。だから、先約があるといって断っていた。
「誰? 彼氏の前で他のやつと…いい度胸してんな」
俺からスマホを取ろうとする森村の手を避け「そんなんじゃねぇって友弘だって…本当あいつ鬱陶しいんだよ」適当に返事してスマホをポケットに突っ込んだ。
「俺んち来るか?」
「……うっす」
「じゃ、行こうぜ」
俺と森村は、昇降口で落ち合う約束をしそれぞれの教室へ向かった。
※
「ちょっやべぇってうわ!」
「つーか弱過ぎだろうが」
二人して液晶画面を睨みゲームをしていた。森村は、一人暮らしをしていて学校のすぐ裏にあるマンションだった。
「このゲームやってねぇもん」
「じゃ、次これしようぜ」森村がコントローラーを操作した。
「……てっきりエロいことでもすんのかと思った」
「それだけじゃねぇだろう…付き合うって」俺は、ゲームに夢中な森村を横目に見てた。
「へぇ…そんなもんなの?」
「そんなもんなの。おまえは下半身に正直過ぎるんだよ」
「ダメか?」俺は、喋りながら器用にコントローラーを操作する森村の手をなんとなく目をやった。案外、綺麗な手してんだなとか森村を見ていた。そんな俺に森村が寄り掛かって片腕で俺の肩を抱いた。
「ダメ…少なくとも俺と付き合ってる間は」
「……そっか」
「尚樹」
「……なに…んっ」
最初にした不快なキスじゃなくて、さっきまで飲んでた甘い炭酸飲料の味がした。
「変な顔……」照れ隠しなのか、森村そう言った。
「……急にしてくるからびっくりした」
森村が優しく笑うのは、俺が付き合ってる相手だからかなんか…童貞みてぇ……
「……童貞みてぇだな俺ら」
「え? じゃねぇの?」俺は、堪えきれず笑った。
「じゃねぇし!」森村は、食い気味で否定し笑った。
まぁ、こうゆーのもいいんじゃね……
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