二度目の初めて

1/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 こんな時に限って、窓の外はすがすがしく晴れ渡っていた。陽当たりのいい窓辺から、暖かな日差しが差し込む。遠くの方から聞こえる小鳥のさえずりが、爽やかな朝の訪れを告げた。  居間と寝室を兼ねた空間。間取りからしてアパートの一室であることは分かる。だが隅々まで整理整頓が行き届いた様相は、明らかに僕の自宅ではなかった。大学の講義で使うテキストもキチッと本棚に収まっているし、サークルの資料すらもファイリングして保管してある。また単に綺麗なだけではなく、家具家電もパステルカラーで統一されており、僕にはないセンスを感じる。  清潔感漂う部屋の中で、ベッド周りだけが激しく乱れていた。シーツはクシャクシャにめくれ上がり、ヨレヨレの掛布団はベッドの崖っぷちに何とか引っかかっている。ベッドの周りの床には、二人分の衣類が無造作に取っ散らかっている。  ベッドの上でお姉さん座りをする理香子さん。毛布にくるまってはいるが、その下は一糸まとわぬ姿。真っ白ですべすべな脚やくびれた腰つきが、隙間から見え隠れしている。  僕は理香子さんを直視できなかった。床に正座して、頭を垂れたまま。落ちていたパンツをとっさに履いたは良いけど、ついさっきまで僕もまた裸だった。  絨毯の模様を見つめ続ける僕の耳に、理香子さんの声が降ってきた。怒るでもなく、泣くでもなく。子供に言って聞かせるような、優しい声だった。 「ええっと……どこまで記憶があるか教えてくれるかな」 「飲み会の途中までです」 「途中って、どのあたり」 「……村井会長が挨拶したあたり」 「つまり、昨夜のことはほとんど何も覚えてないってことね」  僕は小さくうなずいた。居酒屋からここに至るまでの記憶がぽっかりと抜けてしまっている。記憶を掘り返そうとしても、やってくるのは締め付けるような頭痛ばかりである。  理香子さんはもぞもぞと姿勢を変えながら、『それは困ったわねぇ』とつぶやく。そのため息交じりの声を聴いたら、瞳の奥から涙がじんわりとこみ上げてきてしまった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!