手に、泥と血と罪。

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晴れは好きじゃない。 気分を良くした人間を見ると劣等感が湧く。 雨も好きじゃない。 雰囲気に酔った人間が煩わしくて堪らない。 今日みたいな曇りくらいがちょうどいい。 スラムは人間が生きる為の場所じゃない。 全てを失って都市部から追いやられた人間たちが辿り着く。 「国の補助が届かなくても仕方がない」。そう思わせて殺す為の場所。 スリや窃盗を繰り返す内、闇取引をする男に仕事を頼まれた。 何かあった時に死んでも問題がない、そういう意味で自分が選ばれたんだろう。罪悪感や抵抗感で腹は膨れない。綺麗事じゃ生きていけない。 せめて、弟には、そんな思いをさせたくない。 運ばされたのは、新聞紙に包まれた、長さのある何か。 フランスパンくらいか?  それよりは重さを感じる。 そのまま売り払えば、約束の報酬よりも金になるかもしれない。 でも何処に持って行けば買ってくれるのかが分からない。これ以上のリスクは犯さないでおこう。 隠れ家に戻ると、弟は死んでいた。 腕がない。 切断されて人身売買ルートに流れたのだと悟った。さっき自分が運んだのは…。 曇りも、好きじゃなくなった。
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