後期学期後期のルクリア

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父様と話したいと伝えてもらうと。書斎へどうぞという返事。 侍女が対応してくれる間、一応ブロウには隠れていてもらった。 ・・・やっぱりシャンデリアに飛び上がるのね、と可笑しかった。 書斎には、父様と母様が待っていてくれて。 扉が閉まると、ブロウは。 『結界は大丈夫。破ったりしてないって伝えて』と言う。ラナンの馬車が子爵家の門を通るときに一緒に入ったのだそうで。 『ルクリアとは細いつながりがあったから。敵だとは認識されなかったんだ。 ・・・あんなにすぐ、気付かれるとは思ってなかったな。 おじいさんが言った通りすごい魔法使いだね。もう一回謝っといて』 父様は、もう確認をしていたらしく。静かに頷いた。 経緯を説明して、ブロウを我が家に・・・とお願いする。 「ルクリアにも、きっと相棒がいると思っていたよ」 ブロウは最初こそ、澄ましてソファに座ったんだけど。すぐに飽きたらしくって。部屋の探検をはじめ。今は、母様のドレスのリボンと格闘をしてる。 ・・・母様の手さばきが見事だわ!ブロウはすっかり狩りを楽しんでる! 父様も笑いながら。 「聖獣様。我が娘をよろしくお願いします」話しかける。 (あ、僕そういうの苦手)ふふっ。伝えると父様は嬉しそうで。 「あまひょうはみな、そうなのかな。では、家族になってほしい。我が家の好きなところで好きなように過ごしてくれ。 ただ・・・」 父様が言いよどむ。 「もう、しろのことを知っている使用人は数人ですわ」 母様は。遊び疲れたのか、大人しくなったブロウを撫でる。 「そうだな・・・。言い訳と準備が必要だな。 できる限り、家の者と会わぬように過ごしてもらえるだろうか。しばらくでいいから」 ・・・結局、ラナンが連れてきた猫。という形にしようと決める。 ブロウには。結婚まで、他の人間には姿を見せないでほしいと頼んだ。 ブロウはまたも母様のリボンに嚙みつき始めて。後ろ足で蹴っている。 まだまだ子どもなのだわ。 しろに守ってもらったように。今度は私がブロウを守りたい。 私はブロウに責任を持たなくてはならないわ。 決意を新たにしているのに、手を握っていたラナンは。 『もっと肩の力を抜いて考えよう?』と指で甲を撫でてくれた。 父様と母様はその動きを見て、ほほ笑んでる。 「結婚も間近になった・・・。ラナン君に頼みたい事がある。いや、その前に言わなければいけないことがある。 ルクリアは菫に似ている。これから先、君に迷惑をかけるかもしれない」 ラナンが何か言おうとするのを父様は手で止める。 「まず、聞いてくれないか。 他国。特にサンコー皇国との外交、社交には。ルクリアを同伴しないでもらいたい。他国から来賓が来る舞踏会参加も控えてもらいたい」 ラナンは神妙な顔ではいと返事をする。 「・・・ルクリアには、小さいころから友人も作らせずに。悪いことをしたと思っている。 ゴデチアが、自分の思いにとらわれたことをいいことに。それまで彼女が、ルクリアの友人候補を選定していた話をうやむやにした。 あの頃はまだ、菫を知る人間が現役だったんだ。皇国皇宮にたくさん働いていた。 ルクリアが幼いころに誰かに気づかれたら、それこそ面倒だった。 皇国に奪われれば。ルクリアの未来は、あまり丈夫ではない皇太子殿下次第でころころと変わる。何の後ろ盾もないルクリアは。何かあれば、真っ先に切り捨てられてしまう。私たちはそれが一番怖かった」 父様は母様へ視線を送り、母様は口を開く。 「もともと菫様は自分の姿を残すことがお嫌いでした。そのうえ、この国に来るときに、芙蓉様がすべての絵と魔法映像を処分されたと聞いています。 あの頃、末の皇女さまと親交のあった王宮の方々のほとんどはもう、隠居、引退なさいましたわ。 今となっては、菫様は人の記憶の中にいらっしゃるだけ。ずいぶん風化しているはずです。 それでも。 兄である皇帝陛下は、もちろんすぐにお気づきになるでしょう。 皇后陛下も、皇太子妃だった頃に交流されています。 数人のご令嬢が、遊び相手として王宮へ来ていました。彼女たちは全員、今は高位貴族の夫人です。 その頃、護衛騎士だった者は、騎士団長になっています」 母様は続けて。 代々、外交を担当する侯爵家一族とは面識がないはず。この国の外交の担当者数名も、あの頃まだ未成年だった皇女との面識は無いはずだと教えてくださった。 「菫とルクリアの姿を比べることができる方は。 余程のことがないかぎり、この国に来ることは無い。 それでも、用心するに越したことはない」 大丈夫です、とラナンは請け負う。 「辺境伯家はもともとほとんど社交はしません。 私もそのつもりでした。 卒業後は、魔法部に勤める気でいます。 警備護衛に回されても制服のローブを目深にかぶることになりますし。 舞踏会へ出席する気はありません」 「魔法部? 衛士ではないの?」という私の質問と。 「ローブを目深にかぶるだと?」父様の不満な声が。 一緒に発せられた。 にやりとしたラナンは「君が、勤める可能性があるから。魔法部に内定をもらった」と言い。 「やっぱりそういうつもりか。顔が見えなければ、ルクリアが勤められるといいたいのか。だめだ!王宮に勤めるのはだめだと言ったはずだし、結婚後は勤めないとルクリアは決めたはずだ」父様は立ち上がらんばかりに言いつのった。 私の働いてみたいという気持ちを慮ってくれるラナン。 私を守るために絶対にだめだという父様。 ・・・話は平行線で。夕食の時間になったのでいったん保留にされた。   ・ そして数日後。試験結果が出て。 ラナンと3点差で。 私は5年間の首席を勝ち取った。
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