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「よく覚えてないけど、確か。キーホルダーならお揃いでも目立たないし、人にも見せないからちょうどいいと思ったのに、困った顔されて――」
「――あったっけ? キーホルダー」
「あった」
十七年も前の記憶は互いに曖昧で、それ以上は話が進まない。
とにかく、私は和輝とのお揃いを嫌がったわけではないとわかってもらった。
因みに、この時の誕生日プレゼントには、当時流行っていたブランドのバッグ。
人気で入手困難のそのバッグは、直営店でしか買えず、曜日も時間も関係なく突然店頭に並ぶもので、本当に偶然、その場に居合わせたのだ。
黄色い声でバッグ目がけて突進してくる女性たちに驚いた和輝が反射的にそのバッグを手に取ってしまい、引っ込みがつかなくなった。
「ピアス、開けるか?」と聞きながら、和輝が私の耳朶に触れた。
「今から? もういいわ」と言って、私は笑った。
和輝も、笑った。
「なぁ」
「ん?」
「柚葉こそ、後悔してないか?」
「何を?」
「俺と結婚したこと」
「してない」
するはずがない。
ずっと憧れていた男性と結婚できたのだ。
私の人生の幸運の全てを使い果たしたんじゃないかってくらい、嬉しかった。幸せだった。
「良かった」と和輝が呟いた。
私のうなじを撫でていた手に力がこもる。
ゆっくりと引き寄せられ、抱きしめられた。
本当に久しぶりの、夫の腕の中。
こうして戻ってこられたことが嬉しくて、また涙が溢れた。
「愛してるよ」
耳元で囁かれ、首筋に顔を埋められる。
チュッと唇が押し付けられ、その部分が熱くなる。
最後に言われたのはいつだったか、思い出せない。
でも、いい。
こうして、聞けたから。
次に聞けるのが十五年後でも、いい。
十五年後も一緒にいられるのなら、それでいい。
「私も……愛してる」
嬉しくて、恥ずかしくて、声が震えた。
ねぇ、和葉。
プロポーズの言葉、まだ間に合う?
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