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子供たちを抱っこしなくなって、一緒に眠ることも、お風呂に入ることもなくなってから、抱きしめられることはもちろん、人肌に触れることもなかった。
だから、忘れていた。
こんなに心地よくて、安心することを。
「あったかい……な」
ジャグジーでくつろぎながら、恥ずかしくてデキないんじゃないかと不安に思ったりもしたけれど、私を抱き締めて漏らした夫の言葉で、恥ずかしさより幸せな気持ちが勝ってしまった。
ただ、抱き合っていた。
バスローブなんて着慣れないものを着て、ベッドの上で。
そんな触れ合いすらなかった私たちには、こうしてただ抱き合うことも特別で、必要なのだと思う。
「そういえば――」と、うるさいほど激しく鳴り響いていた鼓動がやっと落ち着いた頃に、ぽつりと言った。
夫の鼓動を聞きながら。
「――私が書いた和葉の質問用紙、見たの?」
「うん」
「どうして……」
私はあの用紙を、捨てた。
リビングのゴミ箱に。
「柚葉のお母さんが、拾ってた」
「えっ!? お母さん、見たの?」
思わず顔を上げると、私の頭と自分の顎がぶつからないように、和輝が少し顎を上げて避けていた。
お互いの顔が見えるように、ほんの少しだけ身体を離す。
「浮気してるのかって、聞かれたよ」
「ごめん! 私、後で――」
「――ちゃんとわかってもらったよ」
「え?」
「柚葉を不安にさせたのは事実だけど、誤解だって」
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