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第六話 観客席
それからは翔さんに気づかれないように小さな声で話しながら作業を進めた。
「ふう、やっと終わった」
全てのチケット確認と売る作業が終わり、少し一息ついてから聖夜の雫と一緒にステージに上がる。
「今日は来てくれてありがとうございます。短い時間だけれどいっぱい楽しんでいって下さいね。と言う事で、一曲目からボーカル交換コラボで、聖夜の雫のみんなと俺、陽介で歌います。じゃ、みんな、行くよ」
「はい」
俺の合図で曲が始まる。気持ちが高ぶっていくのを感じる。いつものメンバーではないから、緊張しているけど、それすらも楽しいと感じている。
「夢は夢のままで良いの。貴方への気持ちは宝物」
女性物の歌詞、少し高い声。
大丈夫、ちゃんと歌えている。この子達の曲を汚さないように一言一言大切に。
「私の気持ちをこの歌に乗せて」
歌い終わった。客席の反応を見る。ちゃんと盛り上がっているみたいだ。良かった。
「ありがとうございました。次は、月夜の光、ボーカルは聖夜の雫ボーカルの芽依ちゃんです。よろしく」
挨拶を早々にステージから降りてメンバーとハイタッチをして交換した。
「次の曲も楽しんで下さいね。憧れの月夜の光の皆さんと歌えるなんてとても嬉しいです。では、行きましょ」
芽依ちゃんの合図で翔さんのドラムの音が鳴り響く。そして曲が始まる。
ステージ袖で聞いてやっぱり凄くて興奮してきてしまう。もう十何年も一緒に活動してきているのに、みんなの演奏している姿が眩しくて格好いい。
気持ちが高ぶって本当は観客席に行ったらいけないのにそっと観客席の一番後ろの隅の方に行ってみた。
ステージ袖から見ているのと観客席の隅から見ているのとでは盛り上がりが違う。
「ありがとう。次は各バンドに別れて何曲か歌うから聴いてくれ」
一瞬翔さんと目が合ったような気がした。 ここに来た事、ばれちゃったかな。
観客にばれないようにステージ袖に戻る。
「お疲れ様。めちゃくちゃ格好良かった」
「そうだよな、観客席から見てたらそう思うよな」
健につっこまれてメンバーにばれていた事を知る。
「もう、陽介くんったら途中で行っちゃうからどうしようかと思ったんですよ」
「騒ぎにならなくて良かったですけど」
絵真ちゃんと玲奈ちゃんにも言われてしまった。
「ごめんって。でもさ、みんなの演奏が格好良くてどうしても観客席から見たかったんだもん」
「まあ、良いじゃん。陽ちゃんって、活動を続けているのは美影ちゃんの為って言うけど、本当は俺たちの演奏を一番近くで聴きたいからだよね、意外に。次は近くで聴けるよ、良かったねえ」
智史さんはにやにやとしながら肩を抱いてくる。
「そんな事。ほら、お客さんが待ってるからそろそろ行こ」
半分図星を突かれてしまい照れ隠しで先にステージに上がる。
「陽ちゃん、先に行っちゃうなんて酷いよお」
智史さんの言葉に光っ子が笑い、聖夜の雫のファンの子は少しざわめく。
「みんな、ごめんな。さっき、俺たちの出番の時に陽介が観客席の隅の方に行ってたみたいで。俺たちの演奏が格好良かったからみんなと一緒の空気を味わいたくなったらしいんだ」
「翔さん、もう良いから早くいこうぜ。陽介が俺たちの演奏に惚れているように俺も、陽介の歌が聴きたい」
翔さんが説明に入り、その後に健が恥ずかしげも無く言い放つ。
「そうだな。それじゃ、みんな俺達についてこいっ」
翔さんのドラムの音が鳴り響く。その後に健と智史さんのギター演奏が始まる。
それからライブハウスは熱狂に包まれながらミニライブを終了した。
ー続くー
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