私はおへそフォトグラファ

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私はおへそフォトグラファ

 開け放たれた窓からじんわりと爽やかな風が舞い込む。年々、夏の暑さは増していくが、それでも山から吹き付ける風は涼しく感じる。山あいの地域は確かに生活には不便だが、それを補うだけの快適さも存在する。  自室のベッドで橘勇気は足をバタつかせながらスマホでSNSを覗いていた。勇気のフォロワーは千人強。少なくはないが多いとも言い切れない。 「なかなか伸びないなぁ」  十七歳。女子高生。その肩書の他に勇気が自称しているものがある。それが『おへそフォトグラファ』、おへそだけを専門に撮影する写真家である。それ故に勇気のアカウントは、おへその写真で溢れかえっている。そのほとんどはノリで承諾してくれた友達のものばかり。  おへその写真のツイートにつくリプライは、エロいとか好みとか、どちらかというと健全なる学生が目にしていい内容ではない。無論、勇気の望むものでもない。 「一応、私は芸術家なんだけどなぁ」  スマホを枕元に置いて体勢を仰向けに変える。ふうとため息を一つ。勇気のアカウントをフォローしてくれている人たちの中には勇気が女子高生であるからといった理由の人たちもいるだろう。それが悪いとは言わないが、おへそフォトグラファとして名をあげたい勇気にとって今使えるものは何でも使わなければならないのだ。  名をあげるためにはもう一歩踏み込む必要がある。それが何であるか勇気はもう答えを知っている。ただ、それには危険も付き物だとも分かっている。 「うん。やっぱりボディガードが必要だな」  そのまま勇気は目を閉じる。きっと今年の夏は素敵な夏になる。そんな期待を込めて午睡へと突入した。
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