ロゼの激白

1/1
56人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

ロゼの激白

一瞬の静寂と肌を刺すような緊張感。 どちらかが動けば、その均衡が崩れる張り詰めた空気。 壊したのは、ダニエルだった。 観念したのかもしれない。 愛する人に殺されかけた事実に、自暴自棄になったのかもしれない。 ゼフが止めるのも聞かずロゼに先を促した。 ダニエルは聞かねばならない。 ロゼに死を願われるほど、どんな残酷な過去があったのか。知らずに何をしたのか。 ロゼは微笑む。 口角だけを上げた作り笑いで。 激しく燃え盛る憎悪を込めた瞳で。 勿論教えてあげる。 母が亡くなり私が倒れたあと、ゼフと父は村に帰ろうとしていたの。王都に来た理由がなくなったから当然の結果よね。 私はそれを拒否したわ。 なぜって? ダニエルに会いたかったのよ。 母を亡くした悲しみ、来てくれなかった悲しみ、子を宿した嬉しさと不安な気持ち、怒りたい、甘えたい、慰めて欲しい、色んな感情があったけど、一番は愛する人を純粋に求めた結果だった。 ゼフは止めたわ。 そりゃそうよね、会うどころか暴力を振るわれたんだから。 でも私は聞かなかった。 きっと私が行けば大丈夫。 遠路はるばる村から出て来た婚約者を門番だって無下にはしない、女には手荒な真似はしない、という根拠のない自信があったわ。 ゼフは逡巡してたけど、最後は私の気持ちを受け入れて一緒について来てくれたの。 最初はやっぱり取り次いでくれなかったわ。 知らないの一点張り。 でもそこへ、綺麗な女の人が出て来て言ったのよ。 ダニエルは私の男になった、未練がましく縋らずに田舎者は猿山に帰りなさい、とね。 信じなかった。 嘘つきだと叫んだわ。 だってそうでしょう? 手紙にはいつだって愛の言葉があった。 知らない女の言うことに揺らされたりしない。離れていても気持ちは一緒だと疑いもしなかった。 女は言ったわ。 可哀想に。じゃあ、現実を見せてあげるわ、と。 私とゼフは中に通され、ある部屋に案内されると椅子に手足を縛られた。 喋れないよう猿轡までされたわ。 何が起きたのか、殺されてしまうのか、恐怖でいっぱいになっていると、縛りつけたメイドに耳元で囁かれた。 前をご覧なさい。 ここは特等席だからよく見えるでしょう。 言われるがまま顔を上げれば、私は信じ難い裏切りを目にしていた。 広い寝台の上で、全裸の貴方があの女を組み敷いていたのよ。 ここまで予想していなかったダニエルは、奥歯を噛み締めて唸り出す。 嘘だっ、まさかっ、あの下劣な情交を見られていただなんて! 「愛してる。俺は貴女の虜だ。最高だ。素敵だ。止まらない。もっと激しくしていいか。こんな淫らな肉体を味合う栄誉を頂けて幸せです。……ダニエルが夢中で女に貪りつきながら洩らす睦言に、私がどれだけ絶望したか分かるかしら?」 「誤解だっ! 思ってない! 言わされてただけなんだ!」 「そうだとしても、私を抱いた時とは別人だったわ。慣れた手つきで女の身体に指を滑らせて、快感の高みに押しやっていた。互いに激しく腰を振って何回も求め合うさまは、命令されたから仕方ない、と言い切れるのかしら」 ダニエルはロゼの指摘に言葉を無くす。 何も言えない。言えるはずもない。 睦言は嘘だが欲は確かに発散させていた。 下半身の甘やかな快楽を享受していた。 「気付いたら……貴方達の交わりは終わっていて、女が気怠げな様子で貴方に愛された証を一つ一つ丁寧に指し示し、自慢された。見たことも知ったことも……女の言う通りだった」   解放されて屋敷を出されたら、ゼフが血相を変えて私を抱き上げたの。 血が、血がって、震えながらね。 もう分かるでしょう? 私は流産していたの。 ショックで痛みも何もかも感じなかったわね。   
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!