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プロローグ
窓という窓は開け放たれていた。
ほぼ真横から吹き込む風雨に、カーテンは波打ち、放物線を描いて天井へと舞い上がる。
出窓に置かれた花瓶が床に落下して砕け、テーブル上の新聞や書類は風に飛ばされ宙を踊った。
少年は自分を責めていた。
窓の外に赤紫色の閃光が走り、積乱雲に覆われた空に血管の静脈を思わせる図形が浮かび上がった。
次の瞬間、地鳴りのような轟音が居間全体を震わせる。
少年は脅えたようにうずくまった。
稲妻を恐れたのではない。
目の前には二本の足があった。
恐る恐る顔を上げると、長い髪を振り乱した、夜叉のごときあの人が立っていた。衣服は乱れ、胸元があらわになり、激しい息遣いが伝わってくる。握りしめられた拳が、小刻みに震えているのが分かった。
少年はその顔をまともに見ることができなかった。
――ごめんなさい。
か細い、消え入りそうな声でそう言うのが精一杯だった。
謝って許されることではない。そんなことは分かっている。それでも、他になすすべはなかった。
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