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そこはとても殺風景な場所だった。
日差しを遮る薄いカーテンと来客用のテーブルと椅子、そして大きなベッドと傍にある窓くらいしか部屋にない寂しい部屋だ。
そして部屋のおよそ3割を占めているだろうベッドの上でその人物は外を眺めていた。
やがて扉を開いた音に気が付いたのか声が耳に届いてくる。
「姉さん、頼んでいた奴持ってきてくれた?」
暫く返答に悩んでいると何かを疑問に思ったのかゆっくりと顔をこちらに向け
てきた。
「おや、ごめんね。姉さんと間違えたみたいだ」
「いや別に、気にしてないから」
見れば線の細い少年だ、紫が落ちて白が侵食していくような頭髪と少しだけ見える痩せた手、性別こそ違うが深層の令嬢とはこういう相手を指すのだろう。
「それで君はここに何をしに来たんだい?もしかして僕の命でも摘み取りに来た死神かい?」
なんだそれは、無愛想なのは自分でも知っているけどそうまで言われる筋合いはない。
「今日来る奴の代わりにプリントを持ってきただけだから、それだけ」
さすがに病室で相手に歩かせるのは無理だろうから傍まで寄ってファイルを手渡す。
「ありがとう、君のおかげで僕は留年しないで済むよ」
「そう、私の仕事はこれでおしまいだから」
これで仕事は完了だ、後は一瞥もなく変えればいい。
背を向け、ドアに手をかけようとした時にその声が響いた。
「ならついでに僕の話にも付き合ってくれないか?」
いきなり何を言い出すんだコイツは、それに他人の話なんて聞いてどうしろっていうんだ。
「もちろん君にも益はある、聞いてくれるのならこの封筒を君に渡そう」
それをひらひらと揺らしこっちの反応を楽しんでくる。
これ以上時間を無意味にされるのも面倒だったので傍にある椅子に腰かけることにした。
「悪いね、ずっとこの部屋にいると退屈なんだ。話し相手が欲しかったんだよ」
「それなら担当の人に言えばよかったでしょ?」
「そうも行かないよ、彼らだって仕事があるからね。これ以上僕の事で迷惑は
かけられないさ」
その言葉を吐いてからその場でせき込み始めた。
「ちょっと、大丈夫?」
さすがに目の前で倒れられると寝覚めが悪いからゆっくりと背中をさすっていく。
それに呼応して少しずつ収まり始めていき、落ち着いたのかまた私の顔を見上げて話始める。
「ごめんね、肺の病気なんだ」
「そっか、大変だね」
あいにくそう告げられてもそうですかくらいしか返す言葉が無い。
「見ての通り学校にもまともに通えなくてね、だから君が見た景色を僕にも教
えて欲しい」
「悪いけど、あんたが想像しているような綺麗なもんなんかないよ」
でなきゃ他人についてあそこまでとやかく言えるはずがない。
単にみんな暇を持て余していて、口々に何か言いたいだけだ。
そのはけ口にされているのが目の前の人物だというのに。
「ふふ、そうか。でも君のような人もいるんでしょ?」
何がおかしいのか分からないが苦笑した後に枕元に置いた封筒を掴んで目の前に差し出してきた。
「付き合ってくれてありがとう、これが僕からのささやかな贈り物だ」
「なにこれ」
封筒を裏返すとそこには綺麗な字で何処かの住所が書いてあった。
「それを書かれた場所までもっていくといい、きっと君の心を癒してくれる」
要するにお使いの続きをしろってことか、古い世代のゲームじゃあるまいし。
「さよなら、シラーのような人。願わくばまた会いたいね」
こちらとしては二度とごめんだ、振り返ることも無くその場を立ち去ることにした。
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