もうひと勝負と誤算

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あれだけ梃子摺(てこず)った板坂が、いとも簡単にやられた。 戦う事もなく、寝ている飼い猫を抱くように捕まえて、そのまま飲み込んでしまった。 しかも、前よりも強くなっているというのに——。 銀太達は目の前で起きた光景に、驚きで言葉を発する事も出来なかった。 そんな3人に、いたって普通に相馬は話し掛けた。 「見たか? これが、俺とお前達の力の差だ? 3人掛かりでもでも、俺には勝てない。だが、今、お前達を傷付けるつもりはない。なぜなら、お前らが余計な事をしてくれたからだ」 「余計な事?」 と真鍋は呟くが、相馬は答えずに先に話を進めた。 「波久礼、お前を下手に傷つける事が出来なくなった。涙牙を失う事になり兼ねないからな。当分は大人しくしてろ? 必要になったら俺から出向く。それまでは、自分を大切にしろよ?」 相馬は言った。 「——相馬、お前の目的はなんだ?」 「決まってるだろ? 将門の首と胴を繋いでもう一戦やるのさ? 新皇の復活さ」 相馬は冗談でも言う様に、そう言うと笑った。 「本気なら、頭がイかれとる。識ってのは、将門の怨霊その物ではないようやな? 謂わば、将門の残した力みたいなもんや。お前は、怨霊となった将門公本体を現世に復活させよう言うんか? 復活させて、お前の手に追えると思っとるんか? それこそ、ミイラ取りが、ミイラやで?」 「そんな事、俺がさせるかよ?」 銀太は言った。 「やる気か? やめとけ? 今、敢えて見せてやったろ? 俺との力の差を。お前達が手こずった板坂も、俺にとってはこんなもんだ。2人掛かり——。いや、そこの女と3人掛かりでも勝てるとは思えん」 「そうかな? やって見なきゃ分から無いだろ?」 「分かるさ」 と答えた相馬の目の前には、既に涙牙が出現していた。 だが—— 涙牙と六道丸の大きさの差は、まさに子供と大人。 勿論、平均的な差ではない。 2mの大男と、幼児程の差がある。 到底、勝てるとは誰も思えない。 相馬は心の中で、無謀な戦いだとせせら嗤っていた。 勿論何か考えはあるんだろうが、いったい何をするつもりか?  どんな小細工をしても、俺には勝てない。 2人掛り、それとも3人か?  何の相談もする暇も無かったろう? さあ何をするか—— ガキッ!! ————————————ガガガガァァァァァァァッ!!!!!!???? 六道丸が後ろに仰け反り、右下から左肩に抜けるように逆袈裟に火花が走った。 涙牙は何もしていない。 流石の相馬も驚いた顔をした。 一体、何をしたっ!? んっ!?  涙牙の触手。 人で言うと、左腕にあたる部位が、僅かに動いた。 まさか、あの触手の先の爪か? 何か霊的な力を使ったなら、防げ無かったとしても、発動前か発動後になんらかの霊的な気配が残る筈だ。 だが何も感じない!? 確か、あの触手は伸び縮みするな……? そうかっ!? あの爪は、ボディ内にはデカくて収まらない。 収縮するゴムみたいな触手を限界まで内に引っ張り、タイミング見計らって、解放。 それで、あの爪が目にも止まらない速さで発射された。 攻撃の角度は、あの爪で操作したのか? 霊的な力ではなく、物質化してる事を利用し、単純な物理的攻撃を加えた訳か。それなら、初動さを感知しにくい。 そして、この闇だ。視力は当然落ちる。 それにしても、スピードは完全に六道丸を上回ってはいた。 自分の長所をきちんと見定めていて、それを活かしたか。 なかなか、頭を使っているが、それでも六道丸には猫騙しにしかならん。 一切ダメージは受けてない。 ——相馬はこの分析を一瞬で行い、何をされたかを理解した。 さらに、この方法による的確な攻撃も同時に見出す。 もし狙うなら、俺だ。俺に向けていたら、勝ってた可能性はある。 が、人間にあの爪があの威力で斬り掛かれば、普通は即死。 収縮の反動で発射してるんだ。起動は変えられても、力は加減出来まい。 出来たとしても、スピードを殺すことになる。そうなれば、六道丸に避けられた可能性は高い。あのスピード有っての一撃だ。 その優しさが、お前の弱点だ。 ———んっ!? 考察していた相馬は驚く。 その一瞬の隙に、銀太が自分の目の前に迫っていた。 突っ走って来る。 そして、相馬に飛び掛かり押し倒すと、馬乗りになった。
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