なぜ

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なぜ

 やはり。  そんな気はしていた。  だって、いの一番に白露が逃亡先として伊景を挙げないのは不自然すぎた。  史乃は辛うじて自分を保っていた。  がらがらと音を立てて、自分を支えていたものが形をなくしていく中、泣き喚くことすらできなかった。意識を途切れさせないだけで精一杯だった。  なぜ。なぜ。なぜ?  疑問だけが頭を嵐のように荒れ狂う。  結婚を楽しみにしていると言ったあの声は。  大事にしますと壊れ物を扱うように触れたあの手は。  なんだったのか。  言葉を失っていた鈴里が、無理に笑い、 「もしかして!襲われたことを聞きつけて、助けに来てくれたんじゃ――」 「それは、ない」 「兵士だって、隠れ家に史乃様を迎えにきたのかも知れないじゃない」 「あらかじめ夜襲をわかっていた以外に、直後にあそこを見張るのは無理だ!」  いらだった鋭利な声が、清浄な森の空気を切り裂く。  白露がこんな声出すなんて、初めてだ。  場違いなことが頭に浮かぶ。  凍えるような時間のあと、 「……すまない」  白露の謝罪に、鈴里は首を振った。 「私こそ――史乃様、ごめんなさい。今は、現実を受け入れなければならないのに、私……」  史乃は悲しげな笑みしか浮かべられなかった。
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