卒業

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 中学生の時、僕には好きな人がいた。名前は松野理央さん。  松野さんと同じクラスになったことはない。でも、時々見かける本を読んでいる時の松野さんの顔はとても魅力的に感じた。他の女の子にはないものが松野さんにはあった。  松野さんは、ひどいいじめにあっていた。松野さんの悪口を何回も聞いたことがあるし、松野さんがぬれた姿で帰っていくところを見たこともあった。松野さんは、いつもひとりぼっちだった。  僕は、そんな松野さんに何もしてあげられなかった。  ある日、僕は学校の廊下で吐いてしまった。「給食を残さない」という学年スローガンだったため、無理をして食べたので、気持ちが悪くなってしまったのだ。  見られたくなくて、僕はその場を逃げ出した。何分かたって戻ってみると松野さんが僕の吐いたものを片付けていた。  その様子を見ていた男子生徒が松野さんにひどい言葉をなげかけていた。 「きたねえな、お前」 「いや、松野がきたないのはいつもだろ」  そんなことを言って、笑っていた。  松野さんは無表情で、何を考えているかわからない。  僕は本当のことを言わなければと思った。でも、足は一歩も前に進まなかった。その時、僕は僕が嫌いになった。  卒業するまでに、松野さんに謝罪したかった。そして、僕の本当の気持ちを伝えたかった。でも、言えないまま時が過ぎて、あっという間に卒業式になった。  卒業式が終わり、松野さんのクラスに行くと、もう、松野さんの姿はなかった。クラスメイトが泣いたり、はしゃいだりしている中にいたくなかったんだろう。  僕の気持ちは何も卒業できなかった。
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