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絶筆
知らないなら、教えてあげる。
女性の声がどこからか聞こえてくる。
何を? と尋ねなくても私にはわかっている。彼女が教えたいのはいかにして死を選ぶことになるか、その道筋だ。
眠れないの。仕事が、みんなの叱責が、いつも頭から離れない。いつも誰かに批難されているみたいで、心が安まらない。もっと完全な仕事ができるはずだから、こんな中途半端な状態で投げ出すわけにはいかない。負けちゃいけないのに、疲れ過ぎて考えることすらできない。もう逃げることができない。何も考えずにゆっくり眠りたい。二度と目覚めることのない眠りに陥りたい・・。
女の声は自分の声に聴こえる。彼女は私で、私は彼女なのだから、彼女の言葉は私の胸の裡に潜む言葉であるはず。
死ぬなんてバカだな、って自分でもわかっている。親が悲しむだろうと思うと心が痛い。でも死んでやることでしかここから抜け出せない。他に救いのない暗闇、手探りでもがいても一筋の光も見いだせない暗澹とした日々・・。
考えることに、もがくことに、疲れた。
生きることに、疲れてしまったの。
繭子は深い息を継ぎ、真っ白いスクリーンに心の声を叩きつけた。
(了)
(本稿はフィクションです。実在する団体、人物とはいっさい関係ありません。)
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