ひかるの追跡

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ひかるの追跡

講義が終わり、真珠ちゃんは心理学を。ひかるはドイツ語を取っているので教室が別になり、午後の講義が終わるまで会わなかったので、てっきり忘れてるものと思っていたら、真珠ちゃんが入り口で待っていた。 「ひかるちゃん、こっちこっち」 「真珠ちゃん?」 「ほら、あそこ」 真珠ちゃんが指差す方に目を向けると、藤谷さんが各サークルの部室がある南棟へ歩く後ろ姿が見えた。大学生に見えない高めのツインテールに黄色い半袖シャツとサロペットという格好なのですぐにわかる。 「本当につけるの?」 「ひかるちゃん、あの子の正体が気になるんでしょ?」 「でもストーキングは……」 「探偵ごっこ。ほら!見えなくなっちゃう」 「あっ、待って」 藤谷さんを追って真珠ちゃんが駆け出してしまったので、ひかるは厚底だし乗り気じゃないけど、一人で行かせるのは気が引けて追わざるを得なかった。 藤谷さんはサークルの部室に向かうのかと思いきや、南棟を抜けて大学の南門から外に出た。 電柱3本ぶん程度の距離を保って後ろからついていく真珠ちゃんとひかる。 「どこ行くんだろ?」 「真珠ちゃん、藤谷さんがお笑いサークルに入ってるって、誰からきいたの?」 「本人だよ。所属してるはずなんだけど……」 藤谷さんに聞こえないと思われる距離で、真珠ちゃんと話しながら歩く。 仙台市は都会で通行人も少なくなく、ツインテールで目立つ服装の藤谷さんと、100人いたら97人は可愛いと評価するであろう可憐なワンピース姿の真珠ちゃんと、全身ロリータファッションでピンク色のキャリーバッグを引くひかるの3人に、ちらちらと好奇の視線が刺さる。 しかし藤谷さんは通行人など見えていないような素振りで、歩道の真ん中をずんずん歩いていく。ひかるに見えている姿が他の人にも見えたら、ほぼ全員にスマホのカメラを向けられるだろう。 「藤谷さん、足早くない?」 「うん。ひかる厚底だから、ふくらはぎにきてる」 「早く目的地に着いてほしいな。藤谷さんの家だったら、そこで終わりだけど」 そのオチならひかるもある意味で安心して帰れるのだが、おそらくそうはならないだろうと、藤谷さんの「ひかるにだけ見えている耳」の向きを見て思った。 ぴんと立ち、アンテナのように進行方向に傾くそれに従って、藤谷さんは歩いている。
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