ひかるのひみつ

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ひかるのひみつ

全身フリルの真っ白なドレスとヘッドレストと15cmの厚底というロリータファッションで大学に通うひかるは、「見えすぎる」右目に眼帯を常に付けるためのカモフラージュの意味もあるけど、元々そういうのが好き。 「ひかるちゃん、今日もかわいいね」 「真珠ちゃん、ありがと」 一番眠くなる憲法の授業の時に、真珠ちゃんは隣に座ってほぼ毎回話しかけてくれる。 「今日の眼帯もおしゃれだね」 真珠ちゃんがひかるの眼帯を覗きこんだ。あと3cmで唇がくっつく距離で、絵に描いたような黒髪美少女の真珠ちゃんが顔を寄せててくるのでどきどきする。 いつもなら本当の理由は隠して適当に誤魔化すのだけれど、その日は思わず言ってしまった。 「見えすぎるから。絶対に付けとかないといけないから」 「見えすぎる?どういう意味?」 困った。真珠ちゃんは家族ぐるみのマンガ好きで、他の人なら嘲笑うひかるの話を、笑わずにきいてくれる。だけどこの話はレベルが高い。ゲーム開始5分でラスボスと戦わせるようなもの。 少し考えて、アプローチを変えてみることにした。 「例えばの話として、きいてくれる?」 「おっけー」 真珠ちゃんが顔の横に指で丸を作った。 「例えば、メークが上手で、身長もそんなに高くなくて、喉仏も出てない、誰が見ても男性って見抜けない、女装の天才みたいな人が、うちの大学にいるとして」 「あー、フランス語のクラスにいるよ。フェミニン男子」 「え?そうなの?……じゃなくて、そういう人でも、すぐに見抜いちゃうの」 「へーそうなんだ。それって、別に困る能力じゃなくない?」 「女装男子ならそうなんだけど……」 真珠ちゃんは不思議そうな顔でひかるを見ている。かわいい。嫌われたくない。でもきいてほしい気持ちが勝った。 「例えば『得体の知れないもの』が人間のふりをしてるのが見えたら、怖くない?」 「『得体の知れないもの』って、お化けとか妖怪とか、そういう感じ?」 「まあ、そうかな……」 「それが、ひかるちゃんには見えるってこと?」 ひかるは頷いた。真珠ちゃんは笑わずに真剣に受け止めて、小声でひかるの耳元に話しかけた。 「今、教室に20人ぐらいいるけど、このなかにもいる?」 ひかると真珠は段になった一番後ろの高い席にいるので、全体を見下ろせる。 眼帯を外し、黒目の部分が銀色がかった目で学生たちを一人ずつ見ていく。 「………いる。前から4列めの、左から2番目に座ってるツインテールの人」 「ええと……あ、あの子知ってるよ。確かお笑いサークルに入ってる藤谷さん。明るい、良い子だよ。あの子がどう見えるの?」 正確に描写すると引いてしまうと思い、ひかるは誤魔化した。 「宇宙人ぽいというか……」 「あぁ、確かにちょっと変わってるから、宇宙人ぽいかもね。ひかるちゃんもよく言われるじゃん」 「そういう事じゃなくて」 「仮に宇宙人だとして、何か問題ある?あの子、普通にJDやってるだけだよ?」 「分かってる。何の害もないし、ひかるが怖いだけ。だからこうやって眼帯で右目を覆って、見えないようにしてるの」 眼帯を戻して説明を終えると、真珠ちゃんがいたずらっぽく提案した。 「ね、藤谷さんのこと、つけてみる?」 「え?ストーキングするってこと?」 「何かが変身して人間のふりしてるなら、どこかで人間じゃない証拠を掴めるかもしれないでしょ?」 興味はある。でも仮にそんな証拠を見つけてもどうもできないし、面倒に巻き込まれたくないし、ひかるすぐに返事ができなかった。 「出席票の出し忘れはないですかー?始めるぞ~」 つきたてのおもちみたいなお腹の教授が入ってきて、真珠ちゃんも「じゃ、後で」と授業を聞くモードになり、ひかるは返事をし損ねたまま、教授にバレないように寝る体勢を作った。
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