吸血鬼とアンドロイドの怠惰な日常

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 わたしには、地震雷火事親父なんかより怖いものがある。それは贅肉だ。  体重計が指し示す、モザイクをかけたくなる数値。絶句する、わたし。おそるおそるおなかに手を伸ばす。プニッとやわらかな肉塊が、手の内におさまった。ああ、なんと憎々しいことだろう。  贅肉の侵略が終わらぬ。  これでは、水着で海辺に行けそうにないし、金平糖のような甘い恋も訪れないだろう。 「あーもう。最悪」  盛大に愚痴を漏らしたところで、贅肉はとれなかった。 「どうかなされましたか? お嬢さま」  メイドのレイディが、背後から音もなく忍び寄ってきた。 「なんでもないわよ」 「お嬢さま、内臓脂肪率が――むぐ」  失言を発しようとするレイディの口を押さえる。 「アンタ、血も涙もないの?」 「ございません。アンドロイドですので」  レイディはわたしの手を振り払い、わたしの両頬をつまむ。 「ひゃにふるのお」 「ほっぺもクリームパンみたいですよ。もちもちー」  無機質な声で言うと、フッと機械に似つかわしくない笑みを浮かべるレイディ。  ほんとムカつくお手伝いアンドロイドだ。不良品として、レンタル会社に突き返してやりたい。けれど、こいつがいないと、わたしの生活がままならぬ。 「お嬢さまもすっかり平和ボケしておられますね」 「しょうがないじゃない。日本にヴァンパイアハンターはいないから戦うことなんてないしー」  そのおかげで、命の危機にさらされることは、かなり減った。けれど、スリルも同時になくなってしまった。寿命が長い吸血鬼からすれば、なかなかの死活問題だろう。
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