ねえ、千鶴、逃げようよ

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 中学一年生にして、あたしは一人、人間を殺した。  クラスメイトで友達の梶原千鶴をだ。  あたしは救急車に運ばれる、もう死んだと確認されるだけの少女を見つめている。  担任教師に羽交い絞めにされながらそれを見送っている。  ああ、  ああ、  ああ……!  あたしは殺したかったわけじゃない。本当は助けたかっただけなのに!  あたしと千鶴が運命的に致命的に出会ったのは中学校入りたての四月の教室。初めての中学生活でみんなわくわくとドキドキが一緒くたになって襲い掛かってる時。  あいうえお順に並んだ席によって、梶原千鶴の次となる上総頼子という名前のあたしは、千鶴の後ろへと配置されたのだ。そこで、千鶴はセンセーショナルにデビューを果たし、あたしはその煽りをくらうこととなった。今でも思う。もし、あたしが結城だったり和田だったり、なんでもいいけど上総頼子じゃなくて、梶原千鶴の後ろの席に座らなかったら、友達になれなかったかもって。いや、わかんないけど。 「今日から、一年五組を任されることとなった、三浦義江です。よろしく、じゃあ、みんな自己紹介していきましょう。えぇと、まず安達さんから、よろしくね」  担任教師に指名された子が立ち上がり挨拶をする。よくある、一年生の教室の流れ。  その時の千鶴をよく覚えている。席に斜めに腰掛け、最強に可愛い角度を研究したのかお前ってほど完璧な小首の傾げ方をしながら、自己紹介を聞いていたからだ。  新しい大きめの制服に、ちゃんと測って選んだのかわからないきつそうなシャツ、びっくりするくらい細い体に大きな目に長い睫毛。いわゆる美人に属するその千鶴は、顔とぶりっこ仕草でもうすでにクラスの注目を集めていた。  男からはちょっと引くぐらいの、でも魅力的な可愛さ。女からはどうバッシングしてやろうかという、ぶりっこさで。  とんとんと後ろの席の子に肩を叩かれて、あたしは振り返った。 「何、あの子……同小(おなしょう)?」  あたしは肩を竦めて知らないというポーズを取る。 「あたし宇沢小だけど見たことないよ」  大多数の女子がそうであるように、あたしはけっと斜に構えて千鶴を見ていた。中学生になったあたしは他人とは付き合い程度で抑えて、無駄に深く仲良くなるような、いわゆる友達を作らないと決めていた。
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