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「でも今は……主人のことがよくわかりません」
「え……?」
意外な言葉が続いて瑞希は瞳を揺らした。しっかり者で正義感の強そうな成美が簡単に落ちないことはある程度予想していた。未だに柊斗のことが好きだという成美を手強いと感じた。けれど、困惑気味の成美に隙を見つけた気がした。
「私は彼のことを理解してるつもりでいました。すれ違いの生活だけど、一緒にいる時間は
大事にしてたし、いつも私を気遣ってくれました。でも……私は主人が子供を嫌いなことも知らなかった」
「……成美ちゃんに嫌われたくなかったんじゃないの?」
「2人の一生の問題なのに?」
瑞希と柊斗のやり取り、莉々花との関係を思い出したら急に切なくなった。
最初から柊斗が子供嫌いだとわかっていたら結婚しなかったんだろうか、それとも子供がいなくても2人で老後まで一緒にいられる方法を考えたんだろうか、いや……そもそも彼は30になった私にはもう興味がないんだった。
そこまで考えて虚しくなった。
私はなんのために柊斗と結婚したんだろう。結婚ってなんだったんだろう。そんな答えのない疑問が脳裏を巡った。
じわっと目頭が熱くなった。足を止めて瑞希に問いかけた瞳は、彼を映したまま少し濡れる。
瑞希はゴクリと唾を飲み、息を止めた。雲から覗いた月明かりが成美を照らした。この世のものとは思えないほど美しかった。
……綺麗だ。
瑞希は無意識に手を伸ばし、成美の髪に触れた。顔に張り付いた髪を指先で耳の方へ流す。それからハッと我に返って慌てて手を引っ込めた。
「ご、ごめっ……髪が目に入りそうだったから……」
「……いえ」
成美もふいっと顔を背けた。
うっわ、抱きしめちゃうとこだった! あんな顔で見る!? あー……ヤバい。ちょっと、柄にもなくドキドキしちゃったよ、俺……。
ふーっと少しずつ口から息を吐き出し、呼吸を整える瑞希は、自分の鼓動が激しく音を立てていることに気付いた。
まだ早い、まだ早い。抱きしめるのはさすがに早過ぎる。今警戒されたら先に進めないじゃん。焦るな、俺。いや……別に焦ったわけじゃない……か。
あー……可愛かったな、なるちゃん。
再度歩き始めた成美の様子をチラリと窺う。まだ浮かない顔をしていた。
「……私には魅力がないですか?」
「え?」
今度は突拍子もない質問が飛んできて、瑞希は気の抜けた声を上げた。
「子供がいらないから求められないのは納得しました。でも……じゃあ、私はずっとこのまま女性として望まれないまま枯れていくんですかね」
成美の質問は、このままずっと柊斗に抱かれないまま誰にも求められないまま一生を終えるのかというもの。
瑞希はやっと落ち着いた鼓動が大きく跳ね上がるのを感じた。
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