プロローグ

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プロローグ

 彼女は完璧な妻だった。だから離婚(別れる時)だってそう、完璧に--。  高層マンションの一室、リビングでは緊迫した空気にそぐわない女の甲高い喘ぎ声が響いていた。存在感たっぷりの75インチの大画面に映し出されているのは男女の性行為であった。  L字型の大きな黒革のソファーと、木目調の脚の短いテーブルを挟んでもう1つ追加で並べたソファーに大人ばかり数人集まった。  成美は至って冷静だった。何度も脳内でシミュレーションしたのだ。流れも相手の反応も想像した通り。成美の隣に腰掛けた弁護士の谷村が口を開いた。 「こちらが全ての証拠品となります。雨宮(あまみや)柊斗(しゅうと)さん、有馬(ありま)莉々花(りりか)さんの不貞関係は民法第709条、不貞行為に該当致します。内容証明を郵送させていただきましたが、ご理解いただけないようでしたので、本日この場を設けさせていただきました。  依頼人である雨宮成美(なるみ)さんは精神的苦痛により、離婚の申し入れと雨宮柊斗さん、有馬莉々花さんそれぞれに慰謝料300万円を請求いたします」  谷村が一定のトーンで淡々と説明をすると、動画を流した途端「やめて! 見ないで! 止めて!」と泣き叫んでいた莉々花は絶望していた。  成美と対面していた柊斗の母も「この恩知らずのバカ嫁が! うちの柊斗に限って不倫なんてあるわけがないじゃない! 離婚なんて認めないわよ! 証拠を出しなさいよ!」と怒鳴り散らしていた威勢はどこへやら。  成美の夫である柊斗とその両親。そして成美の職場の後輩であり、柊斗と約1年もの不倫関係にあった莉々花とその両親はまるで通夜にでも来た弔問客のように暗い表情を浮かべていた。  これでようやく全てが終わる。今すぐにでも肩の力を抜きたい成美であったが、全てが終わるまでは気を抜いたらダメだと自分に言い聞かせた。
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