疑惑の水色

2/24
4911人が本棚に入れています
本棚に追加
/135ページ
 「立美さんはもう一泊されるんですか?」  「はい、森下さんも?」  「いえ、これで帰ります。実家がこの近くで、久しぶりなので泊まっていくつもりです」  普段は東京のホテルに勤務しているという森下さん。田原には数年ぶりに帰ってきたそうだ。  「ご両親はきっと喜ばれるでしょうね」  「どうかな。両親は仕事人間で。明日も仕事にいくらしいんですよ。娘が久しぶりに帰ってくるのにひどいですよね」  ふふっと笑う森下さん。顔は嬉しそうだから親子関係は良好なのだろう。  「ご両親、お仕事忙しくされてるんですね」  「児童養護施設の職員なんですけどね。使命感の強い両親で、困ります」  児童養護施設(・・・・・・)。その言葉にドキンと胸が鳴る。  「あの、その施設ってくろしおですか?」  「はい。よくご存じですね」  わたしは、幼い頃その施設でお世話になったと話した。あんまり細かいことは伝えなかったけど。  「あした、もしお時間ありましたら施設に寄られたらいかがですか? 昔からいる職員さんも多いとききますし、施設長は当時からかわっていないと思います」  そっか……。あの頃の先生にまた会えるかもしれない。あしたは特に予定もないし、少し寄って行こうかな。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!