オールウェイズの恋人

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 電話の向こうで微かにクスクス笑う声。  全然切羽詰ってないじゃないか。  俺は「なるべく早く行きます」と返事をして携帯を切った。腰に巻いたタオルを取り、頭をガシガシと乱暴に拭く。半分ヤケクソだった。 「……うがっ! 絶対、絶対、ウソに決まってる! うちのアパートはそんな安普請(やすぶしん)じゃないっつーの!」  本人に言えなかった言葉を吐き出しながらパンツに足を入れ、近くにあったジーンズを掴み、黒のトレーナーに袖を通した。  今は十月の終わり。  日中はまだまだ日差しもあって、ワイシャツ一枚でいいくらいだが、夜は流石に冷える。風呂から出たばかりでポカポカはしているけど帰りは寒いかもしれない。  俺は去年の夏まで普通のサラリーマンだった。  いや、普通よりもちょっとだけ名の通った証券会社にいたのだ。自分で言うのもなんだけど、優秀だったし、仕事も楽しかった。  それなのに、経営陣がマヌケだったのか海外の大手証券会社との吸収合併の話を蹴った途端に業績が悪化。会社はあれよあれよという間に傾きだし、倒産してしまった。  もちろん声を掛けてくれる別の証券会社もあった。  しかし、タイミングが悪い事に母親が入院してしまったのだ。原因はストレスだと医者からは説明を受けたが自分が原因ではないかと思った。  昔から我が道を行く俺を、母親はいつも心配しながらも応援してくれていた。なのに勤めている会社が倒産。お嬢様育ちの母親には大変なショックだったに違いない。俺は思わずベッドで横になる母親の手を握り言ってしまった。 「これからは母さんに心配かけないようにするよ。母さんなんでもワガママ言っていいよ?」  母さんは弱弱しく微笑みながら言った。 「お父さんも年だし、手伝ってくれない? 家の仕事」  俺はつい大きく頷いてしまった。 「そんなのお安い御用だよ」
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