3月9日(晴)

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3月9日(晴)

「卒業式も無事に終わって。このメンバーで集まるのも今日が最後になりますね」 「このクラスはとても仲が良くとてもいいクラスだったと先生は思っています。皆さんは胸を張って卒業していってほしいと思います」 「一つだけ、残念なことがあります。今年の五月。ゴールデンウィークにクラスメイトの一人が事故にあいました。そう。そこの窓際の席の安田玲子さんです。不幸な事故でした。横断歩道で信号待ちをしていた安田さんの所に飲酒運転の車が突っ込んできたのです。運転していたのは無免許の大学生でした。しかも前日に多くのお酒を飲んでいたのです。この事故が交通法の取り締まりの強化につながる要因にもなりました。この辺りはテレビやニュースで何度も取り上げられているので皆さんも知っていることでしょう。 今でもあの事故現場では花束が絶えることなく添えられています」 「このクラスの皆さんはとても心優しい人たちですね。花を今も毎日のように置いてくれているのですから。花の他にもさまざまなお供え物がしてくれています。そのことも知っているでしょうか。あなた達のクラスメイトの友人に対するその真摯な行動がテレビに取り上げられたからです。  この事故の事やあなた達の行動をテレビで知った人たちがお供えや追悼に来てくれているからです。皆さんは本当に素晴らしい生徒たちです。そんな皆さんの卒業式ですからテレビの取材も入っていますよ。今教室の後ろでカメラを回してくれています。先生は本当に誇らしいです」 「どうしたんですか。皆さん。顔色が悪いですよ」 「あなた達の行動は本当に胸を張っていいものなのですから。自信を持ってください。本当に優しい子たちだ。毎日安田さんの為に花を供えに行くなんて」 「」 「皆さんには言っていませんでしたが安田玲子さんは私の姪になります。まぁ。どうでもいいことですね。君たちの取っては冗談のつもりだったんでしょうね。事故現場に花を置けばまるで死んだように見えるっていう悪質な冗談のつもりだったんでしょう」 「実際、ほとんどの人は亡くなったとおもっていたでしょう。ええ、テレビクルーの人も驚いているみたいですね。誰もが安田玲子は死んだと思って疑わなかった。疑わなければ人は調べたりもしないものなのですよ。もしかしたら知っていた人もいたのかもしれません。でも世間がもうそれを口にすることを許さなかった。というか誰も生きているなんて言う事実を求めていなかったんでしょうね。残念なことです」 「ああ。でも心配いりませんよ。もう。事実になっていますから。玲子はクラスメイトから死んだように扱われて、世間からも生きていてはいけないというような空気に押しつぶされた。玲子は今朝近くのマンションから飛び降りました。先ほど息を引き取ったそうです」 「どうしたんですか。みなさん。顔面が蒼白ですよ。皆さんは気にしないで胸を張って卒業していいんですよ。ああ。逃げようとしても無駄ですよ。テレビの取材以外にも、動画サイトで今この教室の様子は生配信していますから」 「見ないほうが良いと思いますよ。見たら貴方たちも窓から飛び降りたくなるかもしれませんから」
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