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夜が更けると、2人で毛布に包まって映画を見た。
子供の頃に好きでよく見たというSFコメディが地上波で再放送されたらしい。
暗がりのリビングの中、隣でココアを啜る音が聞こえる。
本人曰く「職場の女の子にもらった」という有名な鼠のパッケージをした土産物だ。
鼠の型をくり抜いたマシュマロが付いていて、ココアの上に浮かべて飲むと映えるらしい。
一日掃除をしていて気付いたことは、こういった女子からの貢物が至る所から出てくることだ。
本人に自覚はないが、異性を性的な目で見ない美男子はよくモテる。
膝に顎を乗せ、一匹ずつ鼠を投入しては、溶けていく様子を眺めながら、彼は力無く眉を下げた。
「正直、がっかりした? 係長のままでいた方がよかった?」
内心では受け入れてもらえるか不安だったらしい。
そんなところも含めてこの人が可愛くて仕方がない。
「俺はギャップある方が興奮する」
顔を寄せるとキスをした。
甘いココアの味がする。
「……っ俺、家ではこんなだし、仕事から離れたら何の価値もない人間だから、ほんとは同棲なんかしてこんな姿見せるつもりなッ……」
俺は自己否定の念仏を聞き流しながらココアを口に含むと、ネガティブモード全開の色男に口移しで飲ませた。
溶けかけたマシュマロが舌の上に残り、それを2人で味わうと、甘ったるくて濃厚なキスの味になった。
「そうやって心身のバランス整えてるんでしょ? 大事なことだし否定しない」
俺の言葉が響かないのか、まだその目が疑心に満ちている。
もう一度キスしてやろうかと身を乗り出すが、今度はあっさりと顔を逸らされた。
「あと……家では俺に意見求めるのやめてほしい……何食べたいとか、何したいとか、仕事に絡まないなら正直どうでもいいんだ。俺のことは尊重してくれなくていいから、全部橘が決めてほしい」
「駄目。尊がしてほしいこと叶えないと尽くしてる意味無いし」
意地悪な言い方に聞こえたのか、怒られた子供みたいな顔をして俺を見つめている。
プライベートで見せる尊の反応はいちいち新鮮で面白い。
「そもそも、俺に尽くして何になるんだよ。同棲までして……。お前がしんどいだけだろ」
「それ、自分で言ってて悲しくならない?」
淡い琥珀色の瞳に哀愁が満ちている。
「側で支えたいからここにいるんですけど」
「どんだけ奇特な奴だよ……」
「1人くらい尊のこと全力肯定する奴がいたっていいでしょ」
話しながら鎖骨に顔を埋めた。
3日ぶりに欲情する。
彼は首をすくめて肩を押し返してきた。
「駄目?」
前回のこともあり、念のため本人の意向を確認するが、俯いたまま答えが返ってこない。
「嫌だったらしないけど」
その顔を覗き込むと、下唇を噛み締めて眉を寄せている。
当惑したその表情に気持ちが萎える。
身を起こして距離を取ろうとすると、服の袖を掴まれた。
「嫌、とかじゃなくて……」
苦しげで切ない表情になった。
この顔に見覚えがあった。
付き合いたいか、付き合いたくないのかを問い詰めた時だ。
言葉が詰まって出てこない。
「尊、一旦深呼吸してみて」
背中を撫でながらタイミングを待つと、しばらくしてようやく答えが返ってきた。
「橘のことが、嫌なんじゃなくて……俺がまた前みたいにおかしくなったら、お前に申し訳なくて……自分で自分のこと制御できなくなってるし、どうしたらいいか、分からなくて……」
真面目で優しい尊らしい。
「泣き顔も可愛いから好きだけど、苦しいなら無理強いしない」
彼は黙って首を振った。
「大丈夫。でもまた変になったら、その時はごめんな」
「謝らなくていい。無理させるつもりもないから、駄目なら駄目ってちゃんと伝えて」
再び唇にキスをした。
尊の長い指が、俺の背中を掴んで離さなかった。
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