星をつかむ

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* 「えっ何? 今日ここに泊まるの?」 「いいえ。泊まるのではなく、夏樹さんには今日からここに住んでもらいます。大学を卒業したら、僕も一緒に住みます」 「……は……?」 「実家の方は手狭なので、僕がこの離れを父から買い取りました」 「……えぇ……?」 「もちろんローンです。だから卒業後はたくさん働きます。でも夏樹さんはもう働かなくていいです。ここで僕を待っていてくれるだけで」 「……」  さっそく本気を出してきたな。いよいよ「囚われの身」という感じだ。  上手く笑えない理由がわかった。冬馬がずっと演じてるからだ。たぶん俺が理想とする「恋人」を……。  だけど「無理するな」なんて言ったところで、無駄なのはわかってる。  冬馬が素顔でいるためには、俺がずっとそばにいて、絶対に離れないってわからせて、安心させてやるしかない……。 「お前……まだあのデカい家に一人で住んでんの?」 「はい。……あの家は医師だった祖父が、母に遺した家なんです。夏樹さんが東京に戻りたいというなら、あの家に住むこともできます」 「……言わないよ」  そんなの「口だけ」だって、顔を見ればわかる。  謙人をはじめ俺の知り合いがいる東京になんて戻ったら、きっと俺たちはまた同じことになる……。 「一緒に住もうって言ってくれたの、すごく嬉しかったです。待たせてしまってごめんなさい」 「……いいよ。……俺こそ逃げてごめんな」 「逃げられたなんて思ってませんよ」 「……あっそう」  あぁそうか……タクシーの扉が閉まったとき、お前は『逃がさない』って言ったんだな。……案外、俺たちは似た者同士かもしれない。 「もういちど温泉であたたまりますか?」 「……いい。もうじゅうぶん熱いから」 「ふふ……ほんとだ」 「……ンっ……」  俺の夢は、誰かと一生愛し合うこと。  我ながら陳腐な夢だとは思うけど、今までの俺の人生からすれば、それ以上の幸せは思い浮かばない。 「……ぁっ、……冬馬っ……」 「夏樹さん……愛してます」 「……ん……俺も……」  そしてどうやら、その夢は叶う。他のすべてと引きかえに。 「……んぁっ、……ちょっ、もっとゆっくり……」 「……はい」 「三年ぶりだから……痛かったら泣く」 「自分で弄ったりしなかったんですか?」 「……しないよ。そんな習慣ないし。……そもそもそういう気分にもならなかったし……」 「どうしてですか?」 「……おまえ以外で勃たないんだよ」  冬馬と再会してあっさり答えが出た。残念ながらこれは事実だ。 「僕もです。……髪の毛をもらっておいてよかった」 「……キモ。いつ抜いたの?」 「抜いてません。抜け毛を集めただけです」 「…………キモ」  そして安定の怖さ……。
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