第1話 フィーネ・アドラー

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第1話 フィーネ・アドラー

 ここは私の部屋―。 そして今日も私は叔母と1つ年下の従妹のヘルマに大切な物を奪われる。 「やめて下さいっ!それは…それは私のお母様の形見のネックレスなんです!どうかお願いですっ!返して下さいっ!」 私は必死になって叔母であるバルバラ夫人に懇願した。 「あらまぁ…何て素敵なネックレスなのかしら…」 バルバラ夫人はお母様の形見のネックレスを手に取り、うっとりした眼つきで眺めている。 「あら、このドレス素敵じゃない。私に似合いそうだわ」 一方、従妹であるヘルマは私のクローゼットから勝手にドレスを持ちだして、自分の身体に当てている。そのドレスは生前お父様が最後に買ってくれたお気に入りの青いドレスだった。 「あっ!それはお父様が買って下さった最後のドレスなんです!お願いっ!返して下さいっ!」 必死になってヘルマに縋りつく。 「うるさいわねっ!」 ヘルマは乱暴に私を突き飛ばし、衝撃で床の上に倒れてしまった。 ドサッ! 激しく床に叩きつけられ、一瞬呼吸が止まるのではないかと思う位の激痛が身体を走る。 「ゴホッ!!ゴホッ!!」 激しく咳き込むと、ヘルマが言った。 「本当に嫌味な人ねぇ…大げさに痛がったりして」 「ええ。全くだわ。大体そんなに痩せっぽっちでガリガリだから簡単に倒れたりするのよ」 バルバラ夫人が冷たい視線で私を見る。 「お、お願いです…どうかドレスとネックレスを…か、返して下さい…」 痛む身体を無理やり起こし、私は床に頭をこすりつけて懇願した。 「そんな事されてもねぇ…大体貴女はまだ17歳。こんなネックレスを持つのはまだ早すぎるわ。だからこれは貴女が成人年齢に達するまで預かっといてあげるわ」 バルバラ夫人はネックレスを首から下げるとうっとりした眼つきになる。 「それにこのドレスだってフィーネには少しも似合わないわ。大体貴女の両親は2人共金髪碧眼だったのに、貴女はなあに?黒髪じゃない。似ているのは碧眼なところだけよ。おばさまが浮気して出来た娘じゃないかしら?」 ヘルマは私を軽蔑の目で見た。 「!な、なんて…酷い事を…言うの…?私は…まぎれもなくお父様とお母様の娘よ…」 「何所にそんな証拠があるって言うの?もう貴女の両親は死んでしまったのよ?調べようがないでしょう?」 バルバラ夫人の言葉に私は顔を上げた。 「ほら、私を見て御覧なさい?おじさまとおばさまと同じ金髪碧眼でしょう?私の様な人間にこの青いドレスは似合うのよ。貴女の様なカラスの様な黒髪にはせいぜい地味なドレスがお似合いよ。そうね…。例えば鼠色とか茶色のドレスなんかお似合いじゃないの?」 ヘルマの言葉にバルバラ夫人が笑う。 「オホホホ…確かにそうね。ヘルマ。お前中々良いことを言うじゃないの」 その時― 「失礼致します。ジークハルト様がお見えになっております」 1人のメイドが部屋を尋ねて来た。 「まぁ!ジークハルト様がっ?!」 ヘルマの頬が赤く染まる。 「早く、お待たせしてはいけないわっ!」 バルバラおばさまがヘルマを急かす。 「ま、待って下さいっ!ジークハルト様は私の婚約者ですよっ?!何故お2人が彼の元へ行くのですか?!」 私は慌てておばさまのドレスの裾を掴んだ。 「おだまりっ!」 私の言葉にバルバラおばさまが一喝した―。
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