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流転の王女
「マリア・テレジア様」
女官達がわたくしを呼ぶ声かする。だけどわたくしはあまりこの呼び方には慣れない。
「マリアテレジア様」
わたくしは2度名前を呼ばれ我に返る。
「マリアテレジア様お召しかえできましたよ。」
「ありがとう。わたくし少しぼうっとしていて。」
わたくしは姿見の前に立つ。鏡にはドレス姿のわたくしが映る。ピンク色でフリルのレースが使われたわっかのドレス。
「マリア・テレジア様こちらは皇帝陛下からの贈り物でございますよ。」
皇帝陛下とはわたくしの母の兄、つまりわたくしの伯父である。
「ねえ、そのマリア・テレジアって呼び方あまり馴染めませんの。どうかフランスにいた時のようにマリー・テレーズと呼んでくださるかしら?」
「はい、マリー・テレーズ様。」
女官達は退出した。
わたくしは再び鏡に映る自分の姿を見る。どんなに華やかなドレスを着ても心は晴れない。伯父様がわたくしをお城へ受け入れてくださったことは感謝しているわ。こんなに美しいドレスやわたくしを歓迎する宴も。だけどわたくしは見知らぬ人達ばかりのオーストリアでやっていけるか不安だわ。たった1人で。
わたくしの父はルイ16世。フランス国王。そして母はマリー・アントワネット。フランス王妃。わたくしはフランス国の王女として生まれベルサイユ宮殿で育ちました。
ですが11才のとき民衆達の革命により、私達一家はベルサイユ宮殿からチュイリー宮へと移りました。
慎ましやかではありますが、家族で穏やかな日々を送っておりました。
しかし13才のときわたくし達は裁判にかけられるためタンプル塔と幽閉。お父様もお母様も叔母様も処刑され弟のルイ・シャルルは革命委員会に連れさられた。靴屋の夫婦に引き取られたけど酷い虐待を受けて死んだと風の噂で聞いたわ。わたくしは1人になってしまったわ。
「失礼致します。」
小間使いの少女がやってきた。
「マリー・テレーズ様、小包が届いております。」
(一体誰からかしら?)
小間使いは部屋を出るとわたくしは包みを開ける。差出人の名はロザリー・ラ・モリエール。
(ロザリー?!)
わたくしはその名前に見覚えはなかったわ。
中には缶があった。開けるとそこには白いリボンがあった。
「これはお母様の?」
白いリボンはお母様の形見の物でした。リボンと一緒に手紙が同封されていました。
「マリー・テレーズ王女様
突然のお手紙に驚かれたことでしょう。私はコンシュジュルリーの牢獄で貴女の母マリー・アントワネット様をお世話していましたロザリー・ラ・モリエールと申します。
このリボンは王妃様のお櫛を結うのに使っていた物です。王妃様はこのリボンで王女様の髪をむすんでいたと嬉しそうに話しておられました。
処刑される朝、王妃様は私にこのリボンを形見にとくださいました。しかし私は王女様にこそ持っていてほしいと思い同封した限りでございます。
どうぞ王妃様の思い出と共にお持ち下さい。
ロザリー・ラ・モリエール」
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