夢中の魔女の描く星々とひまわり

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 曇天の空が広がっていた。頭が重い。 “SWIFTによる経済制裁は、西側諸国においても諸刃の剣となって資産家たちを苦しめております。” “日米同盟があるので、我が国ももっと制裁に協力するべきです。経済制裁だけではなく、より効果的な制裁を。” “いや、片方の言い分に肩入れするというのも危険ではないのですか。” “現地では多くの犠牲者が。” “我が国に犠牲者の出ない道が優先されるべきです。それよりも災害への対策と復興の補正予算を。” “日米安保により我が国はアメリカの核の傘の下にいるから安全で。” “日米安保体制は万能ではない。いざとなったときに動けるように法改正が不可欠である。”  テレビをつけると、ワイドショーのコメンテーター同士が感情的に口論し合っていた。この世界、いや、この時期の日本は、もっと安全だと思っていた。 “このファットカットウォッチは、手につけるだけで余分な贅肉を削ぎ落としてくれます(※効果には個人差があります)。”  所詮マスメディアは虚構の産物だ。仮装現実と変わらないすべてが造られた世界。僕ら絵描きが苦悩するその真実性の再現の難しさ。リアルに描こうとすればするほど、それは胡散臭さとなって虚構の城を構築する。  憂鬱が僕に再び襲いかかってきた。しかしこの憂鬱ささえも、僕の脳内物質が勝手に造り出した虚構の怪物かもしれない。僕は、いや大抵の人間は生まれた時から絶えずこの虚構の城に陣取る虚構の怪物と闘わなければならぬ運命にあるんだ。  空を見上げると、嘘みたいに黄色く光り輝いた太陽が暗雲の中から顔を出し、僕に語りかけていた。その太陽は、僕に早く元の世界に戻るよう催促する。しかし僕はこの現実と虚構の入り混じった世界で、もっとヒントが欲しかったのだ。ピカソのゲルニカはなぜ抵抗運動の証となったのか。バンクシーはなぜゲリラ的に社会批判を行なうのか。ゴッホは何を思って、社会からほとんど隔絶された人生の最期を過ごしていたのだろう。 “I have a dream.”  キング牧師の有名なスピーチが引用されている。自由とは何か、権利とは何か。パールハーバーを攻撃した者たちは確かに多くの誰かの自由の権利を奪った。その贖罪をいったいいつまで償い続けなければならないのだろうか。 “緊急地震速報です。東北地方で強い揺れが観測されました。津波の恐れがありますので、海辺へは近づかないでください。” “えー今回も3月16日に発生した地震の余震だと思われます。一旦揺れは収まりましたが、しばらく同程度の余震が続く可能性があります。” “現地のインタビューです。” “3.11をどうしても思い出してしまいます。10年以上も経っているのに、あの呪縛から逃れられないなんて。不安で眠れぬ夜が続いています。”  現実には恐怖が続いている。元の世界でもそうだ。真の平穏は絶えず追い求めなければならない。曾祖母もこれが言いたかったのか。
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