センスオブZERO

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第一章 金色の美少女 「三カ月ぶりだな」 「ああ。早く会いたいよ」 地平線を森で埋め尽くす広大なアマゾンの奥地。虫や動物の鳴き声が永遠に止まることがない世界。何百万種の生命の鼓動が生態系の頂点にいる人間に恐怖心を与えている。神々が人間を拒む設計にしたかのような木々が生い茂るこの場所に小さな木造の小屋が立っていた。そこへTシャツ、ジーンズにリュックというラフな格好の二人組の男がある少女に会う為に川を下ってやってきた。一人は寝ぐせのある黒髪に堀の深い精悍な顔だち、もう一人は茶色がかった髪で長いもみあげが特徴の男だった。黒髪の男は手入れされていない無精ヒゲを手でジョリジョリなでながら、小屋の前にある小さな砂地で砂遊びをしている七歳くらいの少女に話しかけた。 「やあ」 「あっ!!お父さん」 少女は黒髪の男を見ると裸足で駆け寄ってきて男の膝に抱き着いた。 「元気か?」 「うん」 少女は照れくさそうに上目遣いで男の顔を見た。 「石田はいるか」 「うん。中にいる」 「そうか。ここで遊んでなさい」 「はーい」 無精ひげの男は優しく少女の頭をなでた。少女はちょっと寂しそうにテテテテと砂地へ走っていった。男が小屋の入り口に目をやると若い男が立っていた。 「先生達、早かったですね。映像の準備できてます」 と石田というその若い男は言った。 「それより石田、体調は大丈夫か」 と茶髪のもみあげの男が声をかけると石田は 「はい。熱はもう下がりました。大丈夫です」 と答えた。小屋の中は無造作に電源コードが絡まったまま床に放置されており、発電機の音が響いていた。そして苔と木、そしてわずかなガソリンの匂いがしている。三人はすぐ床に置かれていたパソコンの前に座わりこんだ。 「これが先週撮影したあの子の映像です」 石田がそう言ってパソコンのマウスをクリックすると映像が再生された。 「力がまた大きくなっているな」 男達の目は輝き始める。 「これなら研究が前進しそうだな」 「はい。しかしこの映像は二カ月前のものです」 「二カ月前!?一番最近のものはあるか」 「はい」 石田が返事をしてマウスを握った時、外から少女の声が聞こえた。その声は何かに話しかけているような感じだった。無精ひげの男は異変を感じて外を見るとジャガーが砂場の少女を威嚇(いかく)していた。 「やばい!!」 少女の父親である無精ひげの男は急いで部屋を飛び出そうとした。だがその瞬間、後ろから肩を強く掴まれた。掴んだのは石田だった。 「待ってください」 「なっ!早く助けないと」 と無精ひげの男は肩の手を振り払おうとした。 「待ってください!!大丈夫です。見ていてください」 石田は真っすぐな目で少女を見た。無精ひげの男が少女を見ると少女の髪がゆらゆらと揺れていた。すると少女の周辺の砂がゆっくり宙に浮き始めた。 「これは・・・・!!」 無精ひげの男は目を見開いた。低い姿勢をとっているジャガーは奥歯まで見えるほど口を釣り上げて少女を威嚇すると、シッポを回転させて少女に飛びかかった! 「あっ!!」
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