センスオブZERO

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と無精ひげの男が声を上げると次の瞬間、ジャガーは少女の一メートル手前で跳ね返された!ジャガーは突風に飛ばされたように地面に転がった。ジャガーは起き上がると懲りることなくもう一度少女へ飛びかかった!!がジャガーは空中で動きを止めた。時間が止まったかのように宙で静止したジャガーは少女と目が合った瞬間、弾かれて地面を転がって倒れた。ジャガーはよろよろと立ち上がるとうなだれるように森へ逃げていった。 「あの年にしてはすごい成長だな・・・」 「ええ」 「やはり我々の星の命運はあの子にかかっている」 男達は立ち昇る砂煙に未来を見た。 「金児様、まもなく学校へ着きます」 護衛で付いているサングラスをした黒服の男の一人がそう言うと少年は桜の舞う車窓を眺めていた。 「俺は高校は行かないって言ったのによ」 かったるそうな表情で頭をグシャグシャとかいているこの少年の名前は福沢金児(ふくざわきんじ)十五才。父親はⅠT事業で莫大な資産を築き、現在は時価総額ダントツ世界トップの多国籍複合企業フクザワホールディングスの創業者である。そして母親は元世界的な女優であり、金児はその母親に似て絶世の美少年だった。 「金児様の入学式に我々だけですか」 黒服がぼそっと言うと金児は 「あのオヤジが来るわけないだろ」 と言って目線を車窓からプロレスの雑誌に移した。金児はあの父親に雇われている付き人達に同情した。そして息子の自分も似たようなもんだと金児は思った。金児は開き直った表情をして 「お互い頑張ろうぜ」 と言うと黒服は押し黙ってしまった。シーンとした悲哀に満ちた車両は希望に満ちた学生の横をすり抜けて天品(てんぴん)高校の校門前で静かに停車した。 「入学生のみなさん。保護者の皆さま。ご入学おめでとうございます。またご多忙中のところご臨席賜りましたご来賓の皆さま、本日は誠にありがとうございます。さてこの天品高等学校は本年でちょうど創立一00周年を迎える伝統と実績のある学校でございます。文武両道を主眼とし・・・」 副校長の高らかな声が体育館に響き渡っている。その声に我が子の門出に感銘を受けている親達がうなずきながら真摯に受け止めている。真新しいブレザーに身を包んだ新入生達は青々と輝く高校生活に胸を膨らませていた。ただ一人を除いては。 「本校は一00周年を迎えるにあたって大きな転換期を迎えることになります。今年度より天品高校はフクザワホールディングスの傘下に入ることになりました」 体育館がざわついた。あらかじめ告知してあったとはいえ世界的な企業が運営するとなるとどんな影響があるのか親達は少しの不安を抱いていた。金児は不機嫌そうに大きな舌打ちをした。 「それにつきまして新たな校長をお迎えすることになりました。ではご挨拶を」 副校長が挨拶を促すと、いかにもインテリといったフチなしメガネをかけたまだ40歳くらいの中年の男が登壇した。するとその男は生徒の方を見渡した。そして金児と目が合うとほんの軽く会釈した。金児はその会釈を無視した。 「皆さんおはようございます。この度、天品高校校長に就任いたしました山川です。校長という大任を仰せつかりましたことを大変光栄に思っております」
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