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それから三年後ーー。
「咲良行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ゆのくんが頬っぺにキスをしてくれて、ふっくらと目立つようになってきたお腹をそっと撫でてくれた。
妊娠が分かり、ゆのくんの誕生日である六月五日に籍だけ入れた。
三年前は毎日のように雨が降っていた。雨の音ばかり聞いていた。
ゆのくんと出会い、僕の人生は180度変わった。大切な家族と巡り会うことが出来た。
ゆのくんという名のひかりに触れ、手探りではじまった恋はまだこれから先も続いていく。僕は死ぬまでゆのくんに恋をしていると思う。
祖父母の三回忌の法要の日、墓前に手を合わせ、ゆのくんと結婚したこと、赤ちゃんが授かったことを報告した。
あと二ヶ月後を目処に契約社員として働いていたオペレーターの仕事を辞めることに決めた。
「咲良」
ゆのくんがすぐに戻ってきた。
「忘れ物?」
「仕事に行くとき、くれぐれも気をつけてって言うのを忘れたから」
変なところが真面目な彼。
「バイトが終わったら迎えに行くから待ってて」
爽やかな笑顔で手を振る彼に、僕も笑顔になり手を振った。幸せは目には見えないものだけど、彼と、彼の家族とこれからも一緒にいたい。
「……雨、止んだんだ」
彼と出会い、三度目の夏がはじまる。
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