親を呼ぶ

「親を呼べ！」

ベテラン学年主任の、それですべて解決だ、みたいな一声に、まだ新人の内だと感じている教師生活四年目の自分は、それほどのことが起きてしまったのだと呆然としていた。

もっとも、なかなかの大事だというのは、誰に言われるまでもなく明らかなのだけど。

自分が受け持つ教室で生徒が鼻血を出し、頬を青黒くしてふらついている。
他にも、二人が床に座り込み、互いを庇うように身を寄せ合っていて、加害者だろう生徒が興奮しきった赤い顔で怒っていた。

全員男子とはいえ、学生のケンカで済ませるには過剰な被害だ。

ともかく、親を呼び出す前に、未だ殴り足りなさそうな生徒の前に立ちはだかった。

「吉井、これは暴力で解決できる問題なのか」

黒髪に黒ぶち眼鏡の吉井は、情けなくも震えが隠しきれない教師を睨みはしたものの、振り上げていた拳を下ろしてくれたので、ほっとした。