1587人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
有馬さんの表情を見れば、何が言いたいのかわかる。
彼のことを理解しているというわけではなく、その表情が不満に満ち溢れているからだ。
「どうしてこんなことになったんだ?」
有馬さんは低くそう呟いた。
「有馬さん、あの時一緒にいたじゃないですか」
話の流れなら十分理解していると思うけれど。
「わかってるよ!だからこそ聞いてるんじゃないか!その場しのぎならまだしも、本当に婚姻届けを出してしまうなんて、一体なにを考えてるんだ!」
声を荒げる有馬さんに委縮してしまいそうになるが、私はぐっと拳を握り締めて視線をかわす。
「確かにあの時はその場しのぎの策だったかもしれません。でもあの後二人で話し合って結婚を決めたんです。流されたわけでも無理やりなわけでもありません」
「だったら時間をかけて愛し合って結婚したわけでもないだろう!」
有馬さんの言う通り、私達に時間の積み重ねはないけれど、言葉では言い表せないお互いに対しての感情はあるのだ。
「時間をかけるだけが愛ではないと思います。現に私達は時間はかけなくともちゃんと思い合っています。有馬さんが考えているような心が伴わない結婚はしていません」
「男と女として何も知らない君たちが思い合ってるなんて笑わせる!菱崎のことなら俺の方がよく知ってるじゃないか!」
「有馬さんと私の間にあるのは、男女ではなく上司と部下というだけの関係性です。確かに長い期間共に過ごしてますが、有馬さんは女としての私のことを微塵も理解していません」
男と女として接したこともない相手から、そう簡単に理解されてたまるか。
最初のコメントを投稿しよう!