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「なあ、どこでもいいから適当なところで停めて」
この二人きりの狭い空間に耐えられそうにない。
早くひとりになりたい。
「待って、こんな何もないところで降りてどうするの?せめて駅まで」
「いや、いい。歩きたいんだ」
車は次第に減速し、静かに停車する。
何か言うべきなのか迷うが、言葉が出てこない。
「そこに傘があるでしょ。返さなくていいから持っていって」
確かに足元に一本の傘がある。
見覚えのない男物の傘。
誰の物かなんて別にどうでもいいけど、他人の物なんて要らない。
傘を持っていかない代わりに一言だけ。
「……元気で」
車を降りドアを閉じた。
雨はさっきより強くなっていて、あっという間に全身がずぶ濡れになっていく。
走り去る車の音も雨音にかき消されていた。
遠ざかる車の姿がまるでモザイクがかかっているようにはっきり見えないのは、激しく降る雨のせいなのか。
それとも……。
電池が切れてしまったみたいに、膝から崩れ落ちる。
もう、これで終わった。
なにもかも……終わりだ……。
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