第二話 俺は不真面目な生徒らしい。

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「隼斗ちゃん、今日の時間割わかる?」 「い、いや。わからない。」  燐は少し大きなため息をはいた。 「そう。今日の時間割は、数学、現代文、生物、古典、情報、地理、日本史よ。」  あぁ、懐かしのスケジュールだな…。俺も高校生の時までは本当に苦労した。もちろん楽しいこともあったけれど、苦痛もたくさんあるんだよなぁ。これをもう一度やり直すというのか。それもそれでキツい。  というか吉澤先生はあのような見た目をして、数学の担当なのか。意外だ。 「ありがとう」  礼を告げると、燐は再び驚いた表情をする。 「あぁー、あまり頻繁にお礼言わなくても良いのよ? アタシ達の心は繋がっているもの。」  なんだそれ。友人同士でも日常的に礼は言わないといけないだろう。あ、まさか。俺はそんなこともできないほど、不良だったということか!?  俺が少し落ち込んでいることに過剰反応した燐は、戸惑いながらも、そっと耳打ちした。 「あのね、隼斗ちゃん。実は、隼斗ちゃんはね、」  俺はゴクリと唾を飲み込む。 「──学園で一番の、ビッチなの。」 「は?」  その言葉を聞いて拍子抜けする。どういうことだよ。び、ビッチ? 俺が? ビッチ?  待て、ちょっと待て。ビッチって、その。たくさんの人と性行為する人のことだよな。それも女性に対して使う言葉だ。男はヤリ○ンとか言ってたっけ。 「ビッチ? ヤリチ○じゃなくて? 本当に、ヤ○チンじゃなくてビッチ??」 「えぇ、そうよ。信じられないかもしれないけどね。隼斗ちゃんは、毎日男を取っ替え引っ替えしながら、自身のお尻を掘らせていたのよ。」  …。  知りたくなかったーーーー!!!!!  だ、だからか!? おかしいと思っていたんだよ。何故変態男に犯されていたのか、そして何故弟が冷めていたのか、何故吉澤先生はエッチという言葉を連発したのか、何故上野先生は俺が有名だと言ったのか。  そうか。俺はビッチだったんだな。毎日男に掘られるのが趣味の。…。  って言われて、納得できるかよ!? 全ての辻褄は合うけどさ! 俺の頭はついていけないんだよ! 「ば、バカ言うな! 俺はそんなことしないぞ。」  燐は大きなため息をはいた。 「あのね、隼斗ちゃん。正直言って、今の隼斗ちゃんはアタシが知ってる隼斗ちゃんとは正反対の性格なのよ。」 「つまり?」 「ものすごくしっかりしているってことよ。記憶喪失ってことは、多分だけど、今の隼斗ちゃんは昔の隼斗ちゃんってことよね? だから、大人の味を覚えて性格が変わってしまった、ということだと思うの。」  燐は真剣に語った。俺の性格が変わった理由は、今の俺は前世の俺だからなんだけど。しかしそんなことは、簡単に言えないしな…。少し気に障るが、燐の言っていることを正しいということにしよう。  そうだ。俺はただの記憶喪失者だ。登校する時に階段から落ちて、記憶が幼少期まで戻ってしまった高校二年生なんだ。そういうことにしよう。 「燐の言っていることは正しいんだろうな。俺がビッチだということも、不真面目な不良だということも。」  俺が言うと、今度は燐が深く考え込んだ。 「不真面目っていうか、なんだろうね。お調子者っていうか? とにかくスキンシップが多い子だったわ。でも教師には手を出していなかったわね。2年C組の生徒とずっとヤっていたんじゃないかしら。」  なんだって。俺ってそこまで尻が軽かったのか? これから、今世で真面目に生きていける自信がなくなってきたぞ。  とりあえず、2年C組には行かないようにすれば良いということか。  俺の考えがまとまりかけていた時、燐はスッと顔を離した。 「まぁ、それはともかく。早く数学の授業の準備しましょ。隼斗ちゃんは面倒くさがりだったから、教科書は全てロッカーに入れていたんじゃないかしら。」  そう言って燐はおもむろに立ち上がる。俺もそれを見て立ち上がった。どうやら教室の後ろに生徒用のロッカーが並べられている様子である。今世の俺は、いわゆる置き勉というものをしているのだろう。  俺は燐の指示に従って、数学の教科書をロッカーから取り出した。
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