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その時、悟った。
ここには来ちゃいけなかったと…。
あの女は、わざと私を誘ったんだ。
京子の舌を絡ませるキスが合図となり、部屋に充満していた熱気が弾け、男女の距離感が一気に近くなる。
男たちは女の肩や腰に手を伸ばし、女たちは男の胸にしなだれかかり、吐き気がしそうな光景が目の前で繰り広げられていた。
「奈緒さん?」
助けを求めようと、まともな隣人を探したがすでに姿が見当たらない。
扉を開こうとするも、なぜか中からは開かず──。
「ここは初めて?」と、男が声を掛けてきた。
「これ…一体、何なんですか?」
後退りながら尋ねると、マスクの向こうで男の目が笑った。
「ここは、人妻の出会いの場だよ」
「出会い…?」
「君たち人妻も、旦那以外に出会いを求めてるだろう?」
「わ、私は違います!」
つい大きな声を出してしまったが、部屋がとてつもなく広いことに加え、誰もが自分たちの世界に入り込んでいる。
あちこちで人目もはばからず、キスをしているではないか。
「向こうに個室があるから、そこでゆっくり──」
「嫌っ!」
力任せに男を突き飛ばし、部屋を突っ切った。
「だ、誰かっ!」
マスクをした女たちに助けを求めても知らん顔で、慌てふためく私を捕まえてようと、男たちが手を伸ばす。
とにかくここを出ないと!
通路を駆け抜け、目についた扉を開く。
しかし、私は目の前の光景に絶句するしかなかった。
「うそっ…」
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